挿話87 いろいろと想いがあるローグのグレイス

「おはようございます。では、今日から宜しくお願いしますね」


 ステラさんが冒険者ギルドの要請で、アレの凄いアレックスさんっていう人の所へ行ってしまった。

 その代わりにイライザさんっていうアコライトの女性がやって来たんだけど……うん。物腰も柔らかいし、上手くやっていけそうな気がする。


「……おはよ」

「グレイスもイライザさんも、おはよっ! とりあえず今日は、この三人パーティになって初めてだし、いつもより簡単な依頼にしとこっか」

「……了解」


 ベラの提案で、今日は薬草摘みの依頼を受ける事に。

 これなら、現れる魔物は弱いし、何かあっても最悪逃げる事だって出来る。

 新たなパーティメンバーでの連携確認などをせずに、いきなりダンジョンへ突入して息が合わなかったら、最悪命の危険があるからね。

 ……前にパーティを組んだローランドさんが正にそのパターンだったし。


「という訳で、タバサさん……は、居ないのね。まぁ薬草採取なら何も問題ないでしょうし、他の受付の人に処理してもらって、早速行ってみよー!」


 今回請けたのは、西の森に生えている薬草の採取依頼だ。

 出て来る魔物もゴブリンくらいだし、まぁ大丈夫だろう。

 ただ、ゴブリンだと余りに弱過ぎるから、連携の確認にはならないかもしれないので、適当な所で、森の奥へ行こう……と、ベラとこっそり話しているが。


「じゃあ、摘んでいきますねー」

「……わかった」

「まぁ大丈夫だと思うけど、みんな離れすぎないようにねー」


 目当ての薬草を摘みつつ、こっそりイライザさんの動きをチェックする。

 薬草摘みだからと、手を抜くような人では無いと思うけど、どうかな?

 ……って、めちゃくちゃ速いんだけど。

 適当に採っているだけ……じゃない! ちゃんと、薬草だけを摘んでる!

 しかも、今回依頼されていない薬草まで採取していて、きちんと綺麗に分別してるなんて!


「……イライザさん。物凄く速い」

「あはは。えーっと、私はソロで活動していたので、薬草摘みのお仕事をする事が多かったので」

「……なるほど。でもどうしてソロで……」


 凄い速さで、草の判別と採取に、分別と整理を繰り返していくイライザさんを見て、こんなに薬草摘みが熟練する程、どうしてソロで居るのか不思議に思った所で、魔物が現れた。


「普通のゴブリン三体ね。私が二体倒すから、グレイスは一体お願い」


 そう言って、ベラが先ず一体を矢で貫き、戦闘不能にする。

 勿論、三体のゴブリンなんてベラ一人で直ぐに倒せるんだけど、イライザさんがどう動くかを見たいからね。

 イライザさんが使える神聖魔法は、怪我を治す治癒魔法ロー・ヒールと、防御力を高めるロー・プロテクション。それから、一部の状態異常を和らげるロー・リフレッシュだと聞いている。

 普通に考えると、ゴブリンくらい楽勝だから、万が一に備えてロー・ヒールの待機をしておくか、念には念を……と、ロー・プロテクションを使うかの二択のはず。

 さて、イライザさんはどうするのかと、様子を伺っていると、


「はぁぁぁっ! とぅっ!」

「……え?」

「ちょっ! どうしてアコライトのイライザさんが突っ込んで行くのよっ! 支援……支援してよっ!」


 ゴブリンに突っ込んで行き、握ったメイスで思いっきり殴り飛ばした。

 私が呆気に取られている間に、イライザさんがゴブリンを全滅させ、


「あぁぁぁっ! またやっちゃいましたっ! ごめんなさい。私、どうしても魔物を見ると、殴りたくなってしまって」


 その場で崩れ落ちる。


「……せ、性格とジョブが合ってないのかな?」

「そうかもしれません。それで、これまでパーティを組んでくださった方たちも、そんなアコライトは要らないと言って、パーティをクビになってしまいまして……」

「う、うーん」


 無言でベラと視線で会話し、どうしようかと考えて居たら、


「ごめんなさい。こんなアコライトは使えないですよね」


 イライザさんが悲しそうに俯いてしまう。


「えーっと、でも魔物が居なくなったら、普通に治癒魔法を使ってくれるんだよね?」

「は、はい。目の前に魔物が居なくなれば、冷静で居られるので。でも、今回のでよく分かりました。やっぱり私、アコライトは向いて居ないんです」

「あの、あまり短絡的にならず……」

「いえ、前から考えていたんです。私は支援役が合って居ないなーって。だから私、ジョブチェンジします」

「ジョブチェンジ? 何それ?」

「はい。普通は成人になる時に、神様からジョブを授かりますよね? それを、もう一度授かる事が出来るんです」


 え!? そ、そんなの聞いた事がないんだけど!


「成人になった時と同じく、何を授かるかは分からず、もしかしたら今より悪くなるかもしれません。ですが、賭けてみようかと」

「そんなの聞いた事が無いんだけど、本当なの?」

「はい。詳しい場所までは分からないのですが、何でもシーナ国にそういう機関があるそうで」


 そうなんだ! という事は、私もローグじゃなくて、もっと女の子らしい、マジシャンや薬師とかになれるのかも!

 決してローグが嫌な訳じゃないけど、本当は後方で頼れる男性に守って欲しい。


「……イライザさん。そのジョブチェンジ……目指しましょう。応援します」

「ちょ、ちょっとグレイス!?」

「本当ですかっ! 頑張りますねっ!」


 ちょっとだけ……ちょっとだけ私も興味がある。

 ジョブチェンジ……調べてみよう。

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