第589話 面倒くさくなったアレックス

 俺が石の壁を使って乗り越えようとした、塔を囲う城壁の様な壁が、轟音と共に崩れていく。

 えーっと、これなら最初から正面突破した方がマシだったか?

 いや、この状況を逆に活かすんだ!


「ユーリ、こっちだ」

「え? パパー、なにするのー?」

「まぁ、待っていてくれ」


 城壁の内側にある、塔へ向かって走ると、塔の壁に張り付き、暫く様子を伺う。

 すると、思った通り、城壁の門があった方から、大量の魔物が出て来た。


「ゴブリン!? 意外だな。割と普通というか、平凡な魔物だ」


 それでも場所が場所なので、見た目は普通のゴブリンでも、独自の進化を遂げ、性質が違ったりするのかもしれないが。

 とはいえ数が数なので、いちいち相手にしていられない。

 なので、わらわらとゴブリンが出て来たところで、先程俺が壊してしまった城壁のかけらを拾うと、城壁に向かって全力で投げつける。

 すると、直撃した城壁がガラガラと大きな音を立てて崩れ出した。


「よし、今だ!」


 城壁が崩れる音に紛れて、塔の壁にタックルすると……思った通り、大した壁ではなく、簡単に内部へ入り込めた。


「≪石の壁≫」


 開けた穴を壁で塞げば……これで、かなり時間が稼げるだろう。

 まぁゴブリン相手なら、囲まれない限り大丈夫だと思うが。


「すごいねー! パパー、とうのかべをこわすなんてー」

「壁の内側に何の気配もしなかったからな。おそらく、皆あの城壁を調べるべく、外へ出たんだと思ったんだ。壁も薄そうだったし、こうすれば余計な戦闘を回避出来ると思ってな」

「うすい……? あ、うん。そ、そうだねー」


 今は塔の一番外側の通路に居るらしく、左右に道が伸びているのだが、塔と言えば上に登るのが定石だ。

 という訳で階段を探すべきなのだが、右側が入り口があった方向であり、ゴブリンたちが集まっていそうなので、とりあえず左へ進んでみる。

 ゴブリンに見つかったら、際限なく集まって来そうだからな。

 暫く進んだのだが、階段どころか扉すらない。もしかして、外周をぐるっと回るだけで、正面の入り口に戻るだけだったりするのだろうか。


「そうだ。通路を石の壁で塞いで、ゴブリンが来られないようにして、内側の壁を破ろう」

「パパー、だいじょーぶ?」

「あぁ。壁の内側に何かが居る気配がしないし、さっきの壁も薄かったからな。という訳で、≪石の壁≫」


 歩いて来た通路を塞ぐように石の壁を出現させ……あ! 幅は合わせられたけど、高さの調整に失敗した!


「ぱ、パパー! あながあいちゃったね」

「そ、そうだな。えーっと、階段を探す手間が省けたな」

「ちょっとみてくるねー!」


 上に空いてしまった穴から、ユーリが止める間もなく二階へ飛んで行ってしまったので、慌ててパラディンの防御スキルでダメージを肩代わりする。

 その一方で、新たに石の壁を出して、俺も二階へ上がると、ふよふよとユーリが戻って来た。


「パパー! だれも、いなさそうだよー?」


 二階は一階と違って、そこそこの広さの部屋に出たのだが、ユーリの言う通り誰も居ない。


「ここは……武器庫か?」


 ゴブリンたちが使うのかどうかは分からないが、斧や棍棒に剣や盾……何れもボロボロではあるが、それなりの数がある。

 ざっと見た感じ、ニナが強化してくれた武器や防具に勝る物は無さそうなので、そのまま三階へ上がる階段を探す事にした。


「まずは普通に部屋を出てみるか」

「はーい」


 扉の向こうに何の気配もない事を確認して部屋を出ると、長い通路になっていた。


「……ユーリ。思うんだが、さっきと同じ方法で三階へ行った方が早いよな?」

「え? あ、うん。そうかもー?」

「じゃあ、早速……≪石の壁≫」


 三階は先程の部屋と同じくらいの広さだが、高さが倍以上ある部屋だった。

 流石に、同じ手で四階には上がれないか。

 いや、上がれるのだろうが、最初に塔の外の城壁でやらかしたように、俺が石の壁を重ねると危険だから止めておこう。


「扉は二つか。右の扉と左の扉……左にしてみるか」


 ただの直感で左の扉を開けると……誰か居るな。


「ほほう。まさか三階まで辿り着いたか。という事は、俺様の妹を倒したか。どうやら、それなりの腕はあるようだな」


 妹? あ……もしかして、各フロアにボス的な存在が居る塔だったのか!?

 すまん。その妹やらには、遭遇すらしていないんだ。

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