第590話 双剣使いのボニファーツ

 広い部屋で対峙する、頭から角が、背後から生える尻尾が蠢く男が、何処からともなく二本の剣を出した。


「俺はギルベルト様の右腕、ボニファーツだ。貴様はここで死んでもらう」

「アレックスだ。悪いが、まだ死ぬ訳にはいかない。ここを通してもらおう」


 ボニファーツと名乗る男が双剣を構える。

 隙が無い……どうやら、かなりの手練れのようだ。

 俺も盾と剣を構え、どうやってこの男を倒すかを考える。

 二刀流で盾を使わないという事は、こちらの攻撃を剣で受け流すか避ける、スピードタイプのファイターだろう。

 防御重視のパラディンとしては、一対一で戦うには相性が悪い相手だが、そんな事は言ってられない。

 流石に、俺がボニファーツの攻撃を防いでいる間に、ユーリに攻撃してもらうという訳にはいかないからな。


「……行くぞっ!」


 先にボニファーツが動き、右へ動くと見せかけて、俺の左側へ。

 俺が構えた盾が死角になると考えているのだろうか。

 だが、スピードはかなりのものだが、ただ俺の周りを回っているだけで、攻めて来る様子はない。


「ふふ……残像で、どれが俺か分かるまい!」

「え?」

「死ねっ! ……ぐはぁっ!」


 俺の周りをクルクル回っていたボニファーツが、左側から俺に向かって突進してきたので、咄嗟に盾で殴ってしまった。

 右側から来ていたら、剣で斬っていたのだが……しかし、ボニファーツは何がしたかったんだ?


「や、やるな。まさか俺の分身剣を初見で見切るとは」

「分身剣?」

「だが、様子見はここまでだ。次は本気で行くぞっ!」


 いや、どの辺りが分身だったのかを教えて欲しいのだが。

 待てよ。サクラやカスミは、俺と違って分身を自在に動かす。

 実は本体がやられた振りをしていて、既にこの部屋の何処かから、分身が俺を狙っているのかもしれない。

 俺を狙う分には良いが、もしもユーリを狙っていたら……とにかく、早く終わらせよう。


「秘技! 流星剣!」

「≪シールド・チャージ≫」

「ごふぅっ! こ、この威力は何だ!? ただの体当たりで、どうしてこんなにも……それに、何故だ!? どうして俺の、無数の斬撃を見切れるんだ!?」

「無数のって言われても、剣は二本しか持っていないと思うのだが」


 もしかして……ギルベルトはレヴィアの魔法を防ぐ程の凄まじい魔力を持つが、配下を育てるのは下手なのか?

 相性の悪いスピードタイプだと警戒していたが、それほど速くないし、技は不発だし……奥の手とかを使われる前に、倒してしまおう。


「≪ホーリー・クロス≫」

「くっ! 舐めるなっ! ……なっ! 何だ、この力はっ!」

「止めだっ! ≪ホーリー・クロス≫ッ!」


 パラディンの攻撃スキル二連撃で、ボニファーツの双剣が折れたものの、身体を狙った一撃は避けられ、脚から蒼い血を流させただけだった。

 二階の武器庫を見る限り、武器のメンテナンスがイマイチで、かつ魔族なので聖属性に弱いのだろう。

 だが、自慢? の脚を痛めたし、次で終わらせる!


「今度こそ……」

「そうだな。だが、このボニファーツ。ただでは終わらん!」


 折れた双剣を投げ捨てたボニファーツが、覚悟を決めた顔で俺を睨みつけながら、自分の腕で自身の胸を貫いた。

 何だ? 自己犠牲系のスキルや魔法なのか?

 もしも俺の奥の手に似たスキルだとしたら……


「ユーリっ! 今すぐこっちへ!」


 少し離れたところで、ふよふよと浮かんでいるユーリを呼ぶと、慌てて抱きしめ、ボニファーツから背を向ける。

 その直後……一陣の風が吹いた。

 ん? 俺の予想では自爆とかで、凄い爆発が起こると思ったのだが、考え過ぎだったのか?

 一応、風が吹いたような気はしたが。


「パパー! だいじょーぶ!?」

「ん? 何がだ?」

「だって、これ……どくのきり、だよね?」

「毒の霧?」


 ユーリを抱きしめたまま顔を上げると、広い部屋が紫色に染まっていた。

 なるほど。俺の直感は正しかったが、効果が違ったのか。


「ユーリ。俺の傍に居れば、毒は効かない。このまま上に行く階段を探そう」

「あ、それなら、あっちだよー。むこうに、かいだんがみえたのー」

「分かった。そっちへ行こう」


 紫色の霧の中をユーリと共に進み、無事に階段へ。

 念の為、治癒魔法も使用して、四階へ上がった。

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