第591話 狂天使ヨハンナ?

 ユーリと共に四階へ上がると、先ずは石の壁で三階との通路を締め切る。

 一先ずこれで、ボニファーツが出した毒の霧は上がって来ないだろう。

 改めて四階を見渡し……先程よりも広く、天井が物凄く高い部屋だという事がわかった。

 おそらく、四階のフロアが丸ごとこの一部屋なのだろう。

 高いところに窓が沢山あるので、部屋の隅々まで見渡せ、部屋の中央部分に階段があるのだが、


「誰も居ないな」

「そーだねー。かくれんぼかなー?」


 見える範囲には誰も居らず、唯一死角となっている階段の裏に誰かが隠れているのだろうか。

 広い部屋なので、階段から離れて回り込み、裏を見てみたが……やはり誰も居なかった。


「姿を消す魔法や仕掛けか? だが、誰かが居る気配すらしないんだよな」

「だったら、うえのかいに、いっちゃうー?」

「うーん。やはり姿を隠していて、俺たちが階段を登った所で、五階にいる奴と挟み撃ちというのが一番やっかいなんだが……」


 とはいえ気配すらしないし、部屋も広いし……ユーリの言う通り、無視して上の階へ行くか。

 そう考え、ユーリと共に階段へ。

 三階よりも遥かに高い事もあり、螺旋階段になっているのだが……普通の階段で、特に怪しいところも無さそうだな。

 一応警戒を続けながら階段を上がり……五階へ来てしまった。


「……≪石の壁≫」


 念の為、五階で挟み撃ちされないように壁を生み出して道を塞ぐと、先程と同じく外壁しかない、フロアが丸ごと一部屋となっている五階へ。

 ただ、そこは王城の謁見の間かのように大きな椅子が置かれていて、背中から大きな翼が生えた男が座っていた。


「ほほう。ボニファーツを倒してから、随分と早く上がって来たな。ラウムにはかなり苦戦すると思っていたのだが」

「ラウム? 何の事だ?」

「四階に居た悪魔の事だ。奴の飛行速度をもってすれば、そうそう攻撃される事は無いと思っていたのだがな」

「……四階には誰も居なかったぞ?」

「……あ、アイツ。またサボりやがったのか! あれ程、勝手に外へ出回るなと言ったのに!」


 えっと……やはり風の四天王とやらは、部下に恵まれていないんだな。


「玉座のような椅子に座っている辺り、お前が風の四天王ギルベルトか」

「如何にも。先ずは人間の身でありながら、この第一魔族領へ来れた事は褒めてやろう。まぁ一緒に天使族の子供が居る辺り、ここまで運んでもらったのだろうが、誇り高き天使族に人間が力を借りられる時点で、普通の人間では無いのであろう」

「誇り高き天使族……? いや、物凄く協力的だし、普通の態度だが……単にお前たち魔族が嫌われているだけではないのか?」

「……」


 思わずユーリと顔を見合わせ、二人で何の話だろうかと首を傾げる。


「ユーディットママは、だれにでも、やさしーのにねー」

「そうだな。ユーディットに限らずとも、天使族は皆……あー、でも前にアーシアは悪魔と戦うという話をしただけで、話も聞かずに大勢連れて来た事があったな」

「えっとねー。ユーディットママが、アーシアはちょっとそそっかしいって、いってるよー。ルーシアは、ちょっとしごとねっしんで、はげしいかもーって。でも、ヨハンナおばーちゃんよりは、ふつーだってー」


 仕事熱心で激しいルーシア……確か、天使族の副隊長だな。

 ヨハンナさんは俺の義母にあたるが、あの人は思い込みが激し過ぎるから……いや、うん。ヨハンナさんにはノーコメントという事で。

 そんな話をユーリとしていると、


「なっ!? ヨハンナだと!? あの女に付けられた傷の痛み……一度も忘れた事は無いっ! 貴様っ! 狂天使ヨハンナの関係者か!」


 突然、ギルベルトが怒りだした。


「狂天使というのは何の事かわからないが、ヨハンナさんは俺の義理の母親だ」

「だよねー! ユーリのおばーちゃんだもん」

「なっ! ……あの戦闘狂で、頭に血が上ったら一切話を聞かないあのヨハンナの孫だと!? お、お前……よく、あんな奴の義理の息子になったな」


 酷い言われようだが、話を聞くと、シェイリーや玄武が魔王と戦う前に、魔族と天使族との激しい戦いがあったそうで……


「って、こんな話をしに来たんじゃないっ! 玄武を解放してもらおうかっ!」


 ヨハンナさんの事を知っていて大きく脱線してしまったが、ようやく本題に戻る事が出来た。

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