第592話 封じられるアレックス
「玄武か。そうだ、せっかくここまで来たのだ。俺の力を見せる前に、玄武の力を見せてやろう」
「どう言う意味……っ!?」
ギルベルトの言葉と共に、身体から力が抜けるような感覚に襲われる。
「はっはっは。玄武の力は支援解除に能力低下……要は、デバフだ。見たところ、お前は相当な加護を受けていただろう。ヨハンナ……は、加護を授ける感じではないから、後ろにいる天使族の子供から貰っていたであろう加護を消してやったぞ」
「玄武は……お前に協力しているというのか?」
「お前に教えてやる義理はないな。さぁ何の加護も無い、素の状態で俺様に勝ってみろ!」
そう言って、ギルベルトが右手を前に突き出す。
おそらく、何らかの攻撃魔法が放たれるのだろう。
……そう言えば、天后も玄武の力で能力を封じられ、おかしくなっていた。
ギルベルトの攻撃を避けなければと、頭では分かっているのだが、身体が動……く?
「ほう、避けたか。では、これではどうだ?」
ギルベルトが玉座に座ったまま、新たな魔法を放つ。
だが、いつもより身体が軽い?
まるで自分の身体ではないかのように軽やかに魔力弾を避け、ギルベルトとの距離を詰めて行く。
「くっ! ならば、避けられない攻撃をするまでだっ!」
「遅いっ! ホーリー・クロス! ……?」
パラディンの攻撃スキルで、聖属性を纏った十字の斬撃を放ち、ギルベルトの身体を斬りつけたのだが、何か違和感がある。
ギルベルトの魔法攻撃を阻止はしたものの、あまり効いていない?
「ふっ! 言っただろう。今のお前は加護を失っているとな。ただの斬撃で我を倒せると思うなよ」
なっ……ホーリー・クロスが発動していない!?
聖属性効果がなく、ただの二連撃だったという事か。
だが、今の斬撃も全く効いていない訳ではない!
「はぁっ!」
「ふはは……馬鹿め。普通の剣での攻撃など、どれだけ受けたところで……」
「せいっ!」
「効かぬ……しつこいっ!」
全力で斬れば斬撃は通るのだが、すぐに傷が治ってしまう。
ギルベルトの回復力が高いのか、それとも魔族は聖属性以外で攻撃しても治ってしまう性質なのか。
とは言え、普通の斬撃でも薄ら傷が付く程度にはダメージが残るようだ。
だが、そんな僅かなダメージと攻撃魔法の阻害に苛立ったのか、ギルベルトが立ち上がり、翼を広げて空を舞う。
「お前の心が折れるまで暫く遊んでやろうかと思ったが、相当しつこい事がわかった。あのヨハンナの身内という事もあるし、指を一本一本すり潰し、思い付く限り残虐に殺してやろう」
そう言いながら、ギルベルトがコウモリのように、高い天井から逆さにぶら下がり、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
俺のパラディンの力を封じた事で、舐めてかかっているのだろう。
だが俺から距離を取った事と、それによって油断しまくっているのがお前の敗因だ!
こちらの奥の手が使えるからな。
「ぱ、パパー! あのオジサン、こわいよー!」
「大丈夫だ。ユーリは俺が守る! ……だが、ユーリ。一つ頼みがあるんだ」
「なーにー? ……えぇっ!? そ、そんなコトしていいのー?」
「あぁ、頼むよ」
「う、うん。パパがそういうなら……」
俺の傍に寄って来たユーリを背中に隠しながら、ある事をしてもらう。
その一方で、先程ギルベルトが喋っていた事について聞いてみる。
「ところで、ヨハンナさんと何かあったようだが、一体何があったんだ?」
「うるさい! お前には関係……あるのか。いいか? よく聞け! あの女は、もう千年程前の事になるが……」
相変わらず逆さまになったままで、ギルベルトがヨハンナさんとの因縁の話を語りだす。
要は、まだどちらも駆け出しの頃に、天使族と魔族の戦いの場で頻繁に遭遇し、ギルベルトがボコボコにされたという話だ。
だが、戦いの最中に思い出話を語りだす辺り、本当にこちらを舐めて掛かっているのだろう。
確かに、三階でボニファーツを倒したのはホーリー・クロス……聖属性の攻撃スキルがあってこそだが、パラディンのスキルが封じられた所で、聖属性の攻撃が出来ない訳ではないのだからな?
「ぱ、パパー。で、できたよ」
「ユーリ、無理を言ってすまなかったな」
「ううん。パパのためなら、これくらい、へーきだよー」
「ありがとう、ユーリ」
準備が整ったところで、今だに一人で昔話を語っているギルベルトを地面に叩き落す事にした。
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