第593話 聖属性攻撃
「あの時、あのヨハンナが天使族の分際で、俺様の自慢の翼に……」
思い出話を熱く語っているところに悪いが、降りて来てもらう為に、部屋に残された玉座を担ぐと、ギルベルトに向かって全力で投げる。
「はぁっ!」
「それから、あの渓谷では……うぉっ!」
油断し切っているギルベルトに玉座が命中し、真っすぐ落ちて来た。
とはいえ、空中でクルっと一回転し、何事も無かったかのように着地しているが。
「ギルベルト! 玄武を返してもらうぞ!」
「やれやれ。またさっきの繰り返しか? 悪いがそんな下らない事に付き合う気は……ぐはっ! な、何故だ!? どうして、普通の剣でこんな威力が!?」
「お前に教えてやる義理はない……だろ?」
宙へ逃げよとしたところでギルベルトを斬りつけ、片方の翼が半分程の大きさになる。
「傷が治らない……これは、聖属性の攻撃か!? この……人間如きが、よくも俺様をっ!」
「その人間と天使族の事を、お前が舐めているからだ」
飛ぼうとしても飛べないギルベルトが、何かの魔法を放とうとしているのか、右手を前に突き出す。
だが、その右手を斬り落とし、そのまま右脚を斬る。
続いて胴体を斬りつけたのだが……元の威力に戻ってしまっていたので、剣を鞘に納めた。
「これは……そうか! 後ろの天使族の力で、一時的に聖属性を付与していたのか!」
「まぁそういう事だ」
「ふっ。バカめ! それが分かった以上、俺があの天使族をお前に近付けさせるとでも思ったか!? 調子に乗って、ペラペラと話すから……」
「調子になんて乗っていないさ。このままお前を倒すからな!」
「はっ! 聖属性の付与など、もうさせないと言って……ごはっ! な、何故だ!? 何故、再び聖属性が剣に付与されているんだ!」
鞘から剣を抜きざまに、改めてギルベルトの胴を薙ぎ払う。
そのまま、驚くギルベルトの首を斬り落とし、脳天から剣を振り下ろす。
更に念のため、再び聖属性を付与して、心臓を貫いておいた。
ここまでやれば、流石に大丈夫だと思いたい。
再び剣を鞘に納め、いつでも抜けるように構えて様子を伺っていると、ギルベルトの身体が黒い霧となって消えて行った。
『貴方は、魔王のしもべである魔族ギルベルトを倒しました。よって、エクストラスキル≪技能成長≫を授けましょう』
この声が聞こえたという事は……間違いなくギルベルトを倒したという事だろう。
『そのエクストラスキルを持つ貴方は、鍛錬を続ける事により、通常スキルが磨かれていきます……玄武の事、よろしくお願いいたしますね』
女神様と思われる御方が、スキルの説明をしてくださったところで、
「パパー! えっと、もうだいじょーぶなのー?」
ユーリが飛んできて、抱きついてきた。
「あぁ。ユーリのおかげで倒す事が出来たよ。ありがとう」
「よかったー! でも、それ……ほんとうによかったのー? パパのけんの、さやのなかにオシッコをするなんて」
「むしろ、ユーリがこれをしてくれなかったら、倒せてなかったさ」
ユーリの頭を撫でた後、鞘から剣を抜き、鞘の中に溜まっていたユーリのオシッ……聖水を流す。
後で野菜村にでも寄って、布か何かを借りて拭いておこう。
「しかし……結局、玄武は何処に居るんだ?」
「んー、とうのうえだったりするのかなー? みてこよーか?」
「あぁ、頼むよ。≪ディボーション≫……あ、パラディンのスキルが発動するな」
ギルベルトを倒したからか、一時期失われていたパラディンの力が戻ったようだ。
だからだろうか。軽かった身体が、元に戻っている。
おそらく、パラディンのジョブを授かった時点で、壁役に適した……敏捷性が下がる代わりに防御力が高まるといった加護があったのだろう。
ただ、腕力などは変わっていなかったので、おそらくだが、玄武の力でパラディンのジョブだけが封じられ、魔物を食べる事で得たスキルは封じられていなかったのだと思われる。
「パパー! このうえには、なにもなかったよー!」
「ふむ。だとしたら、何処なんだ?」
戻って来たユーリとそんな話をしていると、突然塔が激しく揺れだした。
地震かとも思ったが、ここは宙に浮く第一魔族領だ。
地震なんて起こる訳が……
「って、もしかして、この第一魔族領はギルベルトの魔力で浮いていたのか!?」
俺の嫌な予感が的中してしまったようで、ゆっくりと落ちて行く感覚に包まれてしまった。
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