第594話 待たせ過ぎた玄武
「ぱ、パパー!」
「ユーリ! とりあえず、塔の外に出よう。崩れるかもしれない!」
ゆっくりと降下する魔族領に対し、ユーリは空を飛んでいる為、同じ高さに留まっているので、慌てて俺のところへ飛んで来た。
塔が崩れたら困るので、一番近い壁を殴って穴を開けると、そこから外へ。
最初に壁を乗り越えた時と同じように、塔の外壁に剣を打ち立て、スピードを殺しながら、地上へ。
「……って、ゴブリンたちの正面に降りてしまったか」
「パパー! こっちへ向かって来るよー!」
「大丈夫だ。任せてくれ」
ユーリに心配を掛けないようにと、ゴブリンの群れを一掃すると、
『その強さ……もしかして、貴方が女神様の言っていた、救世主なの!? 早く……私を解放して!』
何処からともなく、聞いた事のない幼い声が聞こえてきた。
「ユーリ。今の声は聞こえたか?」
「え? こえって?」
どうやらエクストラスキルを授かる時と同じく、俺にしか聞こえないらしい。
しかし、救世主というのは……あ! もしかして、これが玄武の声なのか!?
『早く……この塔の中よ!』
「塔の中……ユーリ。すまない、少しだけ塔に戻るぞ」
「え? うん」
ユーリを連れ、正面の扉から塔の中へ。
中に入ると、いきなり通路が左右に分かれていた。
「どっちだろうか」
「うーん。さいしょに、かべをこわして、はいったのは、ひだりがわだからー、みぎー?」
そうだな。ユーリの言う通り、外壁を壊したのは向かって左手だし、右へ行ってみるか。
そう思って右へ進もうとすると、
『違う。そのまま真っすぐ!』
玄武から真っすぐ来いと。
つまり、壁を壊せという事か。
言われた通り、壁に体当たりして、そのまま中へ。
真っ暗だが、凄く広く感じる部屋なので、魔法で照明を灯すと……物凄く広い部屋に巨大な亀が居た。
「えっと、玄武……なのか?」
「そうだよっ! 遅いよっ! 遅いー! って、それより、私の身体に繋がれている、変なロープを切ってくれないかな? 今もそれに力が吸われているんだよ」
「……あれか。少し待っていてくれ」
玄武の大きな甲羅に、太すぎるロープが結ばれている。
これは……鉄で出来ているのか!?
普通に斬ろうとしたら、剣が折れてしまいそうだ。
となると……アレだな。
「玄武。熱いのは大丈夫か?」
「んー、まぁ私は水を司るからね。何をするの?」
「このロープが普通には切れそうにないからさ。少し待っていてくれ。……≪フレイムタン≫」
ヴァレーリエから貰った、炎の剣を生み出すスキルを使い、鉄のロープを……斬れたっ!
そう思った直後、
――フレイムタンのレベルが二になりました――
突然、聞いた事の無い声が頭の中に響く。
よく分からないが、もしかしてこれが、技能成長のエクストラスキルなのか?
「わぁ! 力が奪われなくなった! ありがとう! でも、このままでは動きにくいから、少しまって」
玄武が嬉しそうな声をあげたかと思うと、どことなくシェイリーに似ている気がする、髪の短い女の子の姿になった。
いや、確かに先程の巨大な亀に比べれば動き易いとは思うが、どうして神獣は幼女の姿ばかりなんだよ。
「救世主さん。本当にありがとう」
「えーっと、俺はアレックスというんだ。それから、この子は娘のユーリだ。とりあえず、救世主という呼び方は勘弁して欲しい」
「じゃあ、アレックスって呼ぶね。私は玄武。水を司る神獣よ」
「助けに来るのが遅くなってすまなかったな。シェイリーから……青龍から話は聞いている」
「そう! その青龍よ! どうして、アレックスの身体から、青龍の力を感じるの!?」
「それは……って、待った! 何だか、落下速度が速くなっていないか!?」
先程ギルベルトを倒した直後よりも、明らかに落ちている感じが強くなっている。
もしかして、加速しているのか!?
「あー、魔族の四天王の力が失われた上に、さっきのロープを斬って、私の魔力も絶たれたからねー。宙に浮くこの島を維持出来ないんだろうねー」
「玄武の力で何とかならないのか?」
「え? 無理だよ。私の力は水だし、風は苦手だもの。あとついでに言うと、私は空を飛べないし」
待ってくれ。じゃあ、魔族領の落下は防げないのか!?
というか、どこに向かって落ちているのかわからないが、この下に街や村があったらどうするんだよっ!
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