第588話 玄武救出ミッション開始
翌朝。オリヴィアを始めとして皆が眠っているというか、気絶しているが……ユーリと共に出発する事に。
これ以上、玄武救出を遅らせる訳にはいかないからな。
そう思って、そのまま出発しようとしたのだが、
「あらあら。朝食をご用意しておりましたのに」
「既に作ってくれていると言うのなら……い、いただくよ」
クロエの母親が朝食を用意していると呼びに来て、作ってもらった料理を無駄には出来ず、しっかり食べて行く事に。
「あのアレックスさんは、これから凄い事をしに行かれるのですよね?」
「んー、何とも言えないが、おそらくは大変な事かもしれないな」
「それが終わったら、また寄ってくださいね。きっと娘も喜びますから」
腹ごしらえを済ませ、今度こそユーリと共に野菜村を出発する。
「……よく考えたら、ユーリはあの村で待っている方が良かったか? ちょっと危険な場所に行くからさ」
「え? やだよー! ユーリはパパといっしょがいいっ!」
「そうか、わかった。ユーリは俺が全力で守るよ」
背中から抱きついてくるユーリと共に、第一魔族領で一番大きな建物――城へ向かう。
その途中、草原を歩いていると見た事のない魔物が現れ……斬り捨てる。
この魔物は、宙に浮かび上がり独自の進化を遂げた魔物なのだろうか。
いや、数十年くらいでは、環境に合わせた進化などはしないのか? ……うーん、わからん。ただ単に俺が見た事が無いだけの魔物かもしれない。
時間があれば――これから、風の四天王と戦うのでなければ、この魔物の一部を持ち帰って、リディアに調理してもらうのだが、今は一旦諦め……待て待て。
逆か。これから強敵と戦うのだから、少しでも強くなっている方が良いよな。
「≪ピュリフィケーション≫」
よく分からない鳥のような、獣のような魔物の肉を浄化し、
「≪フレイムタン≫」
炎の剣で軽く炙って、少しだけかじる。
……よし。身体が光ったから、何かしらの力を得る事が出来ただろう。
若干、魔力を無駄に消費してしまった気がしなくも無いが、道中で現れた見た事のない魔物を、同じ様にかじっていく。
ちなみに、かじった後はちゃんと燃やし尽くしているので、死骸が腐乱したりする事はないだろう。
「パパー、おなかすいてたのー?」
「いや、違うんだ。これも広い意味では玄武を助ける為なんだよ」
「ふーん、そうなんだー」
ユーリに不思議そうな顔をされながらも、この第一魔族領で一番大きな建物の近くへとやって来た。
「これは……遠目に見た時は城だと思っていたのだが、塔か」
「みたいだねー。ユーリが、いちばんうえを、みてこようかー?」
「いや、それには及ばない。ユーリが危険だし、何よりこういう場合は、最上階に大切な物が囚われているものだから、目指す場所も分かり易いからな」
要は、上へ上へと昇って行くだけで良いんだからな。
城だと、どこに玄武が囚われているのか探さなければならないが、それに比べればかなり楽なはずだ。
更に近付いていくと、塔の周りが高い壁に囲まれており、大きな門がある。
この壁を遠目に見て、城だと思ってしまった訳だが……門は当然閉まっているし、無理矢理開ければ風の四天王の配下が出て来るだろう。
「さて、どうしたものか」
「んー、かべをこえちゃえばー?」
「壁を越えると言っても、かなりの高さなんだよな。木登りスキルで壁は登れないだろうし、ユーリに運んでもらうというのもな。……いや、待てよ。それで行こう」
かつてリディアが使った、石の壁の上に石の壁作戦で行こう。
先ずは、自分の足下に石の壁を生み出す。
すると、俺の身長の倍近くまで、一気に登る事が出来た。
ただ、俺はリディアの力を得て、精霊魔法が未熟な状態で石の壁を出現させているから、形がいびつなんだよな。
リディアが壁を生み出すと、この上部も真っすぐで平らなので、ここへ更に石の壁を生み出すと、真っすぐ上へ延びて行く。
俺がやると、倒れる可能性があるので出来ないが……今回はそれよりも高い壁に面しているからな。
この壁に沿うようにして……
「≪石の壁≫」
案の定、真上には延びず傾いているが、塔を囲う壁にぶつかり、倒壊は免れた。
というか、俺が生み出した石の壁のせいで、この壁が崩れそうになっているのだが……って、壊れたっ!
「くっ! ユーリ! しっかり捕まっていろ!」
「えっ!? う、うん」
「はぁっ!」
壁に剣を突き立て、落下速度を殺しながら、壁の内側へ。
とりあえず潜入……というか、強行突破になってしまったが、玄武が捕らえられている塔へ入った。
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