第332話 疑われるアレックス
俺自身が俺の偽者に間違われるというのは困った。
力づくで脱出する事は出来ると思うが、後でマズい事になってしまうしな。
「貴様らっ! 父上を偽者呼ばわりだとっ! 許さ……」
「ツキ、待った。……受付の方に一つ言っておくが、俺たちはウララドの街の商人ギルドのギルドマスターから話を聞いて動いている。本部が別の組織に脅されているのだろう?」
そう言うと、呆れた様子の女性職員の顔が一気に強張る。
「どうしてそれを……いえ、どうせそれも、何処かで盗み聞きしたんですよね?」
「あの個室に仕掛けられたマジックアイテムの事を言っているのか? 俺は仕掛けられた側だが」
「――っ!? そ、その事まで……ちょっと待ってくださいね。確かウララドの街からの連絡事項では、アレックス様は幼い女児を大勢連れて歩く幼女趣味の男性……ほ、本物っ!?」
「ちょっと待て。その言い方だと、俺がまるで……」
「ギルドマスターっ! た、大変です! 本物のアレックス様が来られてますっ!」
おい、何か勘違いしていないかっ!?
俺はアレックス本人だが、情報が誤っているぞっ!
その上、
「……なるほど。そういう事か。しかし……幼女とはいえ、女に囲まれているのは羨ましいな」
「えぇ……お前、流石にアウトだろ」
「いやでも、俺も気持ちは分からないでもないぞ。あの何も無い平らな感じに、小さいけど柔らかそうな尻と、幼い故の無恥な危うさが……って、お前ら! どうして俺を無視して先に行くんだよっ!」
俺を取り囲んでいた自警団の男たちも、俺を捕えようしていた事を無かった事にして、好き勝手な雑談と共に奥へ引っ込んで行った。
とりあえず、誤解を解かせてくれ!
偽者呼ばわりされた事よりも、むしろこっちの方がどうかと思うのだが!
「お、お待たせしましたっ! ……ほ、本当だっ! 連絡通り幼女がいっぱい! 確か、青髪の幼女がお気に入り……うん。脚にしがみついているし、間違いない! ……アレックス様。この度は失礼なご対応となってしまい、誠に申し訳ありませんでした」
先程の女性職員がギルドマスターらしき女性を連れて戻って来たけど、更に失礼さが増しているんだけどなっ!
というか、商人ギルドはもう助けなくて良いのではないだろうか。
……いや、流石に冗談だが。
「あー、こほん。ウララドの街で話を聞いて、商人ギルドの本部へ向かっているんだが、次はどちらの街へ行けば良いか教えてもらえないだろうか」
「はい。ですが、我々も大体の方角しか……あ、ご存じですか。この街は、東西南北それぞれに街道が伸びておりまして、北はアレックス様もご存じのウララドの街で、東に行くと王都ベイラド。南に行くとオルラドの街となるのですが、この南へ向かっていただければと」
「ん? 東へ行けばシーナ国の王都なのに、南へ行くのか?」
「はい。シーナ国は、王都よりも南にある港街が商売の中心なんです。港がありますので、多くの国に向けて商品を輸出し、同様に多くの国から様々な物を輸入致しますので」
なるほど。では、俺たちが行くべき先は南のオルラドの街という場所か。
……だが、商人ギルドの本部を脅している者たちも、その近くに居るのか?
元々、シーナ国の商人ギルド本部は王都にあると思い込んでいて、相手――おそらく闇ギルドの本部も王都にあると思っていたんだが、分からなくなってきたな。
ウララドの街をマジックアイテムを使って監視していたくらいだし、王都から商人ギルドの本部を脅しているという事も有り得そうだ。
「一つ確認なんだが、東の王都と南にある商人ギルドの本部がある港街だと、どちらが近いんだ?」
「確実に東の王都ですね。とはいえ、それでもそれなりに距離はあります。ですが、港街はそれよりも遥かに遠いです」
「わかった。では、先に王都へ行こう。そっちを先に潰した方が良さそうだ」
「あの、アレックス様。潰すとは……あ、いえ。やっぱり何でもないです」
ギルドマスターが、しまった! みたいな顔をしているんだけど、一体何を想像したのだろうか。
「あー、それと今の話とは少し関係ないのだが、それなりに広くてすぐに住める家を紹介してもらえないだろうか。場所はエリラドの街の中であれば何処でも良い」
「はぁ……もちろん、そういう仲介も出来ますが、予算はおいくらくらいでしょうか?」
「予算は……レナ、大体で良いから出せるか? ……この子が提示したくらいで頼む」
「えーっと、そんなにあれば、いくらでも選択肢がありますので、後程ご案内させていただきますね」
一先ず、商人ギルドの本部は遠い道のりのようだが、シーナ国の王都へ行けそうだ。
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