第693話 天空の本当の姿

「騙されてはならぬのじゃっ! 天空は大嘘吐きで、相手を欺くのじゃ! 天空という名前のくせに、土魔法の使い手なのじゃ!」


 ミオの声が響き渡るが、既に天空が俺の懐に飛び込んでいる。

 くっ! 今から距離を取るのは……無理だ。

 せめてダメージを軽減しようと、全身に力を込めて身体を硬くすると、


「ほぉぉぉっ! イイッ! 硬い腹筋……そして、大きいっ! いただきまーすっ!」


 天空が俺の身体に抱きつき、アレを咥え始めた。

 これも、天空が俺を油断させる為に……って、何をしているんだよっ!


「……っ! 凄い……これならミオちゃんが堕ちたのも納得だわー。じゃあ、てんちゃんも、次はこっちで味見させてもらおーっと」


 顔を上げた天空が、妖艶な笑みを浮かべて立ち上がると……いや、マジで何をしようとしているんだよ!

 一先ず天空を止めようとしたところで、すぐそばで炎がとぐろを巻く。


「このロリババアめっ! よくもやりやがったな……って、俺様のアレックスとヤろうとしてんじゃねぇっ!」

「あら、蛇ちゃん。よく戻って来られたわね。諦めて、時間切れで帰ると思っていたのに」


 炎が人の形になり、騰蛇が戻ってきた。

 一先ず無事で何よりだが……天空と騰蛇で、俺のアレ越しに会話するのはやめてくれないだろうか。


「戻って来るに決まってるだろ! 久しぶりにアレックスに会えたんだ……って、俺様がアレックスを良くしてやるんだっ!」

「ふふん。今、どうしてこれが硬くなっているか分かる? てんちゃんがしてあげたからよ?」

「だ、だったら、ここからは俺様がするっ!」

「えー。アレックスはてんちゃんの方が良いわよね?」

「アレックス、騙されるな! こいつは幼女の姿をしているけど、実際はババアなんだからなっ!」


 そう言って、今度は騰蛇がアレを……って、天空と取り合うなっ!


「騰蛇も天空もやめるんだ」

「やだ! 次は俺様の番!」

「てんちゃんだって、まだ味見してない! ……こうなったら、どっちがアレックスを満足させるか、勝負よっ!」


 いや、おかしいから!

 そういうのを止めろって言って……天空ぅぅぅっ!


「おほぉぉぉっ! こ、これは……」

「あぁぁぁっ! 次は俺様の番だって言ったのに……アレックス! 早く天空を満足させて、交代してよっ!」


 天空が正面から俺に抱きつき、騰蛇が涙目で俺の顔を見上げてくる。

 いや、どうしろというんだ。


「あぁぁぁっ! もう、この姿じゃ無理っ! ほ、本気を……本気を出さなきゃ」

「えっ!? 嘘だろ!? ロリババアが本来のババア姿に!? 俺たちでさえ、数える程しか見た事がないのに!」

「~~~~っ! もう、無理ぃぃぃっ! 本気でイカせてもらうからぁっ!」」


 俺に抱きついていた天空の身体が霧のような物に包まれたかと思うと、三十代半ばといった感じの女性に変わっていた。

 いや、これでその呼び方は酷くないか?

 ……正直言って、騰蛇やミオの姿が幼過ぎると思うのだが。


「これ……しゅごい! ミオちゃん……私も、この人間族が欲しいっ!」

「何を言ってんだ! アレックスはミオの夫だけど、俺様の夫でもあるんだ! 嘘吐きロリババア……今はただのババアだけど、お前にあげる訳ないだろ! というか、早く代われよーっ!」

「らめぇぇぇっ! 私、この人間族を気に入ったのぉぉぉっ!」


 再び騰蛇が暴れだしそうになったところで、ミオの声が響く。


「アレックスよ、流石なのじゃ。まさか、あの曲者の天空を素直にさせるとは……正直、驚きを隠せないのじゃ」

「ミオ!? ……って、待ってくれ! まさか、ユーリやディオナは……」

「心配無用なのじゃ。我の結界とザシャの暗闇のコンボで、こっちへ来たり、この光景を見たりする事はないのじゃ。という訳で、アレックスよ。早く分身するのじゃ」


 結局そうなるのかよっ!

 どうでも良いが、元々居た獣人族が戻って来るかもしれないのでは?

 女性ならばともかく、男に見せたくはないのだが。


「それもそうじゃな。ザシャともう一仕事するのじゃ」

「私は、あまり広範囲は得意じゃないんだけどね……まぁ頑張るよ」


 ミオは、ディアナが外へ出られない結界を張ってアレを見てしまう大惨事を防ぎつつ、更にその外側へ、獣人族が中に入って来られない結界を張ってくれた。

 ディアナも、その外側のミオの結界に合わせて暗闇を筒状に生成して、外から中が見えないように。

 ここまでしてもらった以上、期待に応えない訳にはいかず……分身スキルを使う事になってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る