第692話 天空VS騰蛇

 天空と騰蛇が互いに睨み合い……先に騰蛇が攻撃を仕掛ける。


「くらえっ! ロリババアっ!」

「ロリババアは余計よっ! ふんっ!」


 騰蛇が巨大な炎の弾を天空に向けて放つと、天空が右手を向け……掻き消えた!?

 天空という名前からして、風か光系のスキルを使うのだろうが、あれ程の巨大な火炎弾は何処へ行ったのだろうか。


「あ、アレックス。言い忘れていたけど、天空は俺様の攻撃を消した訳じゃないぜ」

「どういう事だ?」

「何処か、別の場所へ飛ばした可能性がある。気を付けて!」

「気を付けて……って、これかっ!」


 先程騰蛇が放った火炎弾が、何故か俺の足下から真上に向かって飛んでくる。

 流石に避けられる訳もなく、直撃してしまった。


「あらあら。蛇ちゃんの炎が、ミオちゃんの旦那さんを焼き殺しちゃったわねー。ミオちゃん、カワイソー」

「ふっ。俺様のアレックスが、この程度で死ぬとでも思っているのか?」

「いや、普通に死ぬでしょ。だって、普通の人間族よ? それに蛇ちゃんだって、単純な攻撃力だったら私たちの中でも、上位の方だし。あと、俺様の……って、ミオちゃんのでしょ? まぁもう死んだから関係ないけど」

「だから、アレックスは普通の人間族じゃない……って言っているんだよっ!」


 そう言って、今度は騰蛇が放射性の火炎を放つ。

 流石にこれは火炎弾とは違って、別の場所へ飛ばす事は出来なさそうだが……でも、消えたな。

 ただ、念の為に大きく後ろへ下がっておく。


「えっ!? 服こそ燃えてるものの、本当に生きてた!? ……というか、服以外無傷!? あの男、人間族……よね?」

「アレックスばかり見ていて良いのか? 俺様も舐められたものだぜ!」

「チッ! これだから単純バカは……」


 天空が俺に気を取られている間に、騰蛇が詰め寄り、炎を纏わせた拳で天空を殴りまくっている。

 一見すると騰蛇が推していて、天空が防戦一方に見えなくもないが……よく見ると、天空の身体に騰蛇の拳が触れる瞬間に、炎が消えている!?


「クソッ! ロリババアめ」

「蛇ちゃんが単純過ぎるの……よっ!」

「しまっ……はぁぁぁっ!」


 天空が何らかの攻撃を放ち、騰蛇の姿が掻き消える。

 だが、その直前に騰蛇が巨大な炎の柱を……って、流石にこれはダメだろっ!

 慌ててミオに目を向けると、大丈夫だと言った様子で大きく頷く。

 とはいえミオは酔っているから若干心配なのだが、距離も離れているし、よく見るとユーリも防御魔法を使用していて、笑顔を向けてくれているので本当に大丈夫なのだろう。

 その一方で、獣人族の――豚耳族の男性たちは……うん。既に村長の家が吹き飛んでいるし、周囲に居なさそうなので、とっくに逃げたと思われる。

 そして、周囲を紅い炎が包み込み……騰蛇の姿が消えてしまった。


「騰蛇っ!?」

「平気よ。ちょっと別の場所へ移動させただけ。どのみち蛇ちゃんもミオちゃんに呼ばれて来てるでしょ? そのうち時間切れになって、元の場所へ戻るわよ」


 そう言って、天空が俺に向かってやって来る。

 天空には俺が丸腰だと思っているだろうが、グレイスからもらった空間収納魔法に装備一式を収納しているから、斬撃を放つ事は可能だ。

 だが、あの騰蛇の炎を消していた謎の力……俺の愛剣も消されると困るな。

 でも、そうも言っていられる状況にないので、空間収納から剣を取り出し、構える。


「空間魔法? なるほどね。空間を変化させて、蛇ちゃんの炎を防いでいたって訳ね。だけど、ダメよー。そう簡単に、手の内を見せちゃうのは……ひぃっ!」


 なんだ?

 剣を構えただけでまだ何もしていないのに、突然天空の動きが止まったぞ?

 これはチャンスなのだろうが……相手はミオの仲間であって、魔族などではない。

 倒す事が目的ではなく、落ち着いてもらう事が目的なので、今なら会話出来るのでは?

 という訳で、剣を空間収納でしまうと、完全に丸腰で天空に近付いて行く。


「天空。見ての通り俺は丸腰だ。ひとまず話をしないか?」

「ど、何処がよっ! 物凄く凶悪な物を持っているじゃない!」

「凶悪な物? いや、空間収納スキルが使えるのはその通りだが、武器を取り出す事なんて考えていないんだ。そもそも、俺は天空と戦おうと思っていない。むしろ、ミオの仲間なのだから、親交を深めたいと思っているんだ」

「し、親交を……ほ、本当?」

「あぁ、もちろんだ」

「私と……てんちゃんと仲良くなりたいの?」

「その通りだ」


 天空の表情が怯えから……あれ? 変な表情になったな。

 親交を深めたいと言っただけなのに、獲物を狙う獣のような目に変わる。


「アレックス!? 騙されてはならぬのじゃっ! 天空は……」


 直後に遠くからミオの警告が聞こえてきたが、既に天空が動いていて、あっという間に至近距離まで詰められていた。

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