第691話 丸投げ

 しまった。

 ミオは酒に強いと思っていたのだが……むしろ弱かったのか。

 そういえばシェイリーも酒が好きで、酒に強い雰囲気を出しながらも酔いまくっていたなと反省していると、


「あれ? わーい! ミオちゃんだー! ひっさしぶりー!」


 ミオと同じくらいの背丈で、頭に犬の耳が生えている幼女が現れた。

 容姿からすると、十歳くらいに見えるのだが……一部が非常におかしな事になっている。


「なっ!? その身長で、私より胸が大きい……だと!?」

「そ、そんなっ! ま、負けた……こんな小さな子に。いえ、小さくないんだけど……」

「凄ーい! けど、重そう。走るのに邪魔そうだね」


 俺と同じ箇所に気付いたモニカとグレイスがその場に崩れ落ち、ディアナがしげしげと幼女の胸を見つめ……こらこら、触るんじゃない。


「おぉぉぉっ!? 女が増えたっ!? だが、まだ子供……いや、でもあの胸は凄いな」

「あの胸なら、全然ありじゃないか? いろいろ楽しめそうだし」

「お、俺はむしろ、ロリ巨乳に出会えた事に感謝している! 神様、ありがとう!」


 獣人族の男たちが幼女を見て騒いでいるが……とりあえず、黙らせるか。

 ミオに呼び出された幼女に触ろうとした男たちを殴り飛ばそうとすると……俺が手を出す前に、男たちが吹き飛び、家の壁を突き破って外へ飛ばされて行った。


「豚耳ヤローが汗まみれの手で触ろうとするんじゃねーよ……あ、君は可愛いから別に良いよー」


 えーっと、男たちを吹き飛ばしたのは、幼女のスキル……か?

 とりあえず、ディアナを吹き飛ばさなかったのはありがたのだが……口調が変わり過ぎだな。


「むっ!? お主は、天空か。また最悪な者が現れたのじゃ」

「えー! ミオちゃん、ひっどーい! てんちゃん、久しぶりにお呼ばれしたのにー! ……ていうか、豚耳族の男に囲まれているけど、どういう状況なのー? とりあえず、豚君たちは殺しちゃってもいいー?」

「待つのじゃ。我が夫、アレックスは人を殺める事を良しとしないのじゃ。殺るなら、我らが居ない所でやるのじゃ」


 いやいやいや。酔ってるからだと思うけど、ミオは何て事を言うんだよ。

 俺が居ないところでも、無関係の人を殺すのはダメだ!


「ミオ。とりあえず、この天空って子には帰って……」

「待って! ミオちゃん、結婚したの!? うそ! マジで!? そのアレックスって人はどんな人なの!? 種族は!? 格好良い!? ちゃんと愛してくれる!? その小さな胸でも」

「あ!? お主に言われたくないのじゃ! この嘘吐きロリババアめっ!」


 えーっと、天空と呼ばれた幼女とミオが一触即発と言わんばかりの状態で、ミオがかなり怒っているんだが……とりあえず、大惨事になる前に帰ってもらえないだろうか。


「ミオ。天空って子には悪いが、帰ってもらえないだろうか」

「は? てんちゃんが呼ばれたのは、すっごく久しぶりなんだよ!? 誰か知らないけど、この人間族の男も死んじゃえ!」

「なっ!? 天空! 許さんのじゃ! ≪六壬≫」


 天空が俺に向かって手を向けたところで、ミオが……再び召喚スキルを使用したっ!?

 いや、そのスキルは呼んだ相手を全員制御出来るようになってから使ってくれ……って、また小さな子が現れたけど、今度は誰だっ!?


「お? あぁぁぁっ! アレックスー! やったぁぁぁっ! やっとミオが俺様を呼んでくれたんだな!」


 この声と、男の子みたいな顔は……騰蛇か。

 ボーイッシュな顔や髪型に、話し方はそのままだが、何故か服装が女の子っぽいワンピースになっているけどさ。


「……って、ちょっと待った! お前は、天空! この嘘吐きババア! アレックスに向かって何をしようとしているんだっ!」

「ん? アレックス……って、この人間族の男がアレックス? 嘘でしょ!? ミオちゃんの夫が神族や天使族、竜人族や幻獣族でもなくて、人間族だなんて!」

「アレックス! この嘘吐きババアを黙らせるから、ちょっとだけ待っていてくれよな!」

「はぁ? 男の娘みたいな容姿のアンタに、てんちゃんを止められると思ってるわけ?」

「誰が男の娘だっ! 俺様は女の子だっ!」


 天空の言葉に騰蛇がキレ、周囲に熱波が……って、皆は大丈夫なのか!?

 慌てて周囲を見渡すと、いつの間にかミオが結界を張っており、ユーリやディアナもその中に入っていた。


「アレックスよ。皆の者は我が守るのじゃ。じゃが、その二人はもう我には止められぬ。後は任せたのじゃ」


 って、ミオ!? 皆を守ってくれたのはありがたいが、この二人を俺に丸投げするのは止めてくれぇぇぇっ!

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