第899話 VSモーガン

 モーガンが早く仕掛けてこいと言いたげに、こっちを見てくる。


「今からお前を倒すが、その前に一つ答えろ。お前はこの国の王なのか? それとも王に成りすましているのか?」

「愚問だな。余がここにいる、人間たちの父親だと本気で思っているのか?」

「いや、一応確認しただけだ」


 おそらく、ここにいる男たちはこの国の王族なのだろう。

 それをあっさり斬り、デイジーを駒呼ばわりしていたので、違うだろうと思っていたが……やはり、そうだったか。


「なっ……ち、父上!? 一体何を……」

「待て。我らが父と思っていた者は、別の何かなのだ。それは、兄上を斬った事からも明らかだ。やはり十年前に豹変したあの時から……」

「うるさい。余は、この男の戯れに興じようとしておるのだ。羽虫は黙っておれ」


 そう言って剣が振るわれ……くっ! おそらく、この男たちはモーガンが神族に変わっている事を知らないのだろう。

 聖騎士として、助けられる命は助けなければ!


「≪清祓乃水≫」


 川の神、セオリツヒメからもらった、浄化の力を持つ水がモーガンを包み込む。

 だが、大量の水を受けながらも、モーガンが止まらず、男の一人を剣で貫く。


「がはっ!」

「ふむ。この水は、神の力か。なるほど。確かに奥の手と言える力だ。余の剣が普通の剣になってしまったな」


 男の血が水に流れるが、浄化する力の効果なのか、単純に流されているのか、赤い血があっという間に消えてしまった。


「ふふ。今なら、お前のスキルも効くかもしれないぞ? さぁ掛かってこい」

「言われなくとも……はぁっ!」


 水が引いた部屋の中で、一気にモーガンへ距離を詰め、剣を振るう。

 だが俺の愛剣の一撃を、モーガンが軽く防ぐ。


「ふむ。人間にしては力があるな。だが、せいぜい竜程度の力だろう。その程度では、余には届かぬな」


 モーガンの剣が横長に振るわれ、剣で防いだものの、弾き飛ばされる。

 強い……だが、負ける訳にはいかない。

 この国を腐らせた元凶……こいつを倒さなければ、ここに住む者たちがずっと苦しいままだっ!


「うぉぉぉっ!」

「ふむ。正面から来ても、我には勝てぬぞ?」

「≪ホーリー・クロス≫」

「それは、さっき見た。言っておくが、あれは余の剣が優れているから防げたと思っているのであれば、間違いだ。単純に余の剣技だ」


 そう言って、モーガンが俺の十字の連撃を妨げようとするが……これで終わりではないっ!


「≪フレイムタン≫」


 右手の剣が弾かれたところで、左手に炎の剣を生み出すと、回転するように横長に払う。


「むうっ!? これは竜の炎か。だが、この程度では……」

「まだだっ! ≪ホーリー・クロス≫」

「両手だとっ!? 愚かな! 付け焼き刃でスキルを放つからだ! その炎の剣が、自身の腕を斬り落とすであろう!」


 体勢を崩し、かつスキルは持っていても、今までやった事の無い二刀流でのホーリー・クロスで、先に剣を振るった右腕に、左手のフレイムタンがの刀身が触れる。

 だが……俺は炎ではダメージを受けない!

 驚くモーガンの隙を突き、愛剣で奴の剣を押し込みながら、炎の剣で胴を薙ぎ払う。


「ふっ、人間にしては良くやったではないか。あくまで人間にしては……だが」

「炎は効かないのか」

「いや、効かない訳ではない。この炎が弱すぎるのだ。あの神の水は良かったが、それだけだったな」


 残念ながら、清祓乃水はまだ暫く放てない。

 神の力だけあって、魔力の消費が激し過ぎる。

 だけど……いや、待てよ。それなら……


「陛下! 陛下っ!」

「こちらから、激しい音が聞こえてくる!」

「あそこだっ! 扉が壊れているぞっ!」


 ある事を閃いたところで、部屋の外から複数の男性の声が聞こえてきた。


「ふむ。どうやら余興は終わりのようだな。まぁ退屈凌ぎにはなった。怪盗レックスとやら。余の剣であの世に送ってやろう。さらばだ」


 モーガンが剣を振り被る。

 マズい! この剣では、モーガンの攻撃を受け止められない!

 一か八かの攻撃に出るしかないのか!? そう思ったところで、


「アレックス! お待たせっ!」


 俺を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

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