第900話 救援

「その声は……白虎!?」

「うんっ! ミオにアレックスのピンチだって聞いて来たよっ!」

「すまぬ。部屋の外から見ておったが、我が手を出せる状況ではなかったのじゃ。そこで、式神召喚を使い、白虎が現れたのじゃ」


 部屋から離れるように言ったのだが、どうやらミオが残っていたらしい。


「白虎! アレックスの剣の強化を頼むのじゃ! 見ておったが、アレックスは剣が折れるのを防ぐため、全力を出せておらぬ!」

「なるほど! そういう事なら……えーいっ!」


 白虎の力なのか、俺の剣が黄金色に一瞬強く輝き……光が収まる。


「アレックスの剣を私の力で強化したから、これで暫くは全力で斬っても折れないわよ」

「ミオ、白虎! 助かる!」

「我らは集まって来る兵士を止めておくのじゃ。そ奴は……すまぬが頼むのじゃ」


 ミオと白虎に任せろと告げ、強化された剣をモーガンに叩き込む。


「むぅっ! なるほど。これまでは剣が折れぬように手加減していた訳か……ふんっ!」

「はぁっ!」


 モーガンの横薙ぎの剣を、強化してもらった愛剣で受け止め、固めた左の拳をモーガンの腹へ。


「ぐっ……ふふ、これまでの斬撃よりも、今の拳の方が効いたぞ」

「そうか。だが、こっちはどう……だっ!」

「うぐっ……だが、所詮は神獣の力。余には届かぬっ!」


 全力で薙いだ剣がモーガンの身体を斬り……途中で止まった!?

 しかも、全力で剣を引いているのに、抜けない!


「ふっ、ここまでのようだな」

「あぁ、そうだな」


 動かない剣を手放し、後ろへ飛び退く。


「ほぅ、諦めたか。まだ悪あがきをするかと思ったが、余は十分楽しんだ。褒美として楽に終わらせてやろう」

「いや、諦めてわけじゃないさ。一か八かに賭けるのが、好きではないだけだ! ≪清祓乃水≫」

「またそれか。如何に神の力とはいえども、二度も効くと思うなっ!」


 そう言うと、モーガンがセオリツヒメの水を斬ろうとしているのか、剣を下から上へと振り上げるように構える。

 だが、さっきと同じなどとは言っていない!

 魔力が回復しきっていないので、本来の清祓乃水とは違う発動の仕方がだが……上手くいってくれっ!


「なっ!? 神の水を刃にしただと!?」


 川の水を圧縮した水の刃を手に、モーガンに向かって飛び込みながら全力で振り下ろすと、その刃を斬ろうとモーガンが剣を振り上げる。


「はぁぁぁっ!」

「うぉぉぉっ!」


 二つの刃が交差し……振り切った俺の水の刃が、モーガンの剣とその体躯を二つに切り裂いた。


「神の力を使う人間か……だが、余は神の一柱。滅びはせぬ。暫し休むだけだ……」


 そう言い残し、二つに分かれたモーガンの身体が消えていった。

 どうやら、無事倒す事が出来たようだ。

 だが……セオリツヒメの力を、無理矢理捻じ曲げて使ったからだろうか。

 身体から力が抜けていく。


「くっ……」

「お、おい。一体、どういう事なんだ!? お前はどこから現れたんだ!? それに、父上の遺体が消えたが、何がどうなっているんだっ!」


 最初にこの部屋の中にいた男のうち、唯一の生き残った奴が、訳がわからないと言った様子で騒いでいるが、説明する力も残っていない。

 もう目も開かず……床に崩れ落ちる。

 それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 一瞬かもしれないし、暫く経ったのかもしれないが、誰かが俺の傍にいる。


「アレックス! くっ、この身体では……」


 ミオの声が聞こえたかと思ったが、誰かが俺の身体を抱きかかえて、走っているようだ。


「少しだけ我慢するのじゃ! すぐに、フョークラのところへ連れて行くのじゃ! かの者の薬ならば、必ず何とかなるはずなのじゃ!」


 声や喋り方はミオだが、ミオでは俺を抱きかかえて走れないだろう。

 そう思ったところで……遂に俺の意識が途切れてしまった。

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