第19話 タバサから連絡があったものの、内容がよく分からず混乱する俺と、不機嫌なリディア

「じゃあ、ニナはお鍋と急須を作るねー!」

「あぁ、よろしく頼む。俺は地下洞窟探索の為に必要な物を集めて来る」

「あ、待ってください。私もアレックスさんと一緒に行きますー!」


 昼食を終え、ニナは先程手に入れた鉄と粘土を使い、早速鍋などを作り始めた。

 何でも、鍋はブラックスミスの鍛冶スキルで簡単に作れるらしい。

 どちらかというと、粘土を使った急須の方に時間が掛かるのだとか。

 加工のし易さから考えると、逆に思えるのだが……まぁそういう物なのだろう。


「アレックスさん。地下洞窟探索に必要な物って、何ですか? 壁の内側には果樹園と畑しかありませんよ?」

「昼食前に、リディアが虫は火と氷が弱点だって教えてくれただろ? 俺の攻撃スキルは聖属性しかないから、魔法じゃない火で攻撃しようと思ってさ」

「……そ、それってもしかして、木を燃やすって事ですか?」

「まさか。大事な果物の樹だし、折れた枝や落ち葉ならともかく、故意に折ったりはしないよ」

「で、ですよね。……でも、それでは一体何を燃やすのですか?」


 不思議そうに小首を傾げるリディアを連れ、俺がやって来たのは小麦畑だ。

 その脇に、これまでに収穫した小麦から穂を取った、茎の山が積んである。

 最初は、これで麦わらの帽子を作ってみようとも思ったのだが、あまりに難し過ぎて断念した。

 また、燃やして灰にすれば畑の肥料になるかも? とも思ったが、そもそもリディアの精霊魔法で作物を育てられるし、ただ火事になる危険があるだけなので、それもやっていない。

 という訳で、ただのゴミとなってしまっていた麦わらを集め、ギュッときつめに縛って、松明みたいに出来ないかと思った訳だ。


「……しかし作ってみたものの、麦わらって中が空洞なんだな」

「そうですね。その分、よく燃えるんじゃないですか?」

「そうだな。とりあえず大量にあるし、作るだけ作っておくか」


 どれ程の効果があるかは分からないが、かなり広い洞窟だったし、これを燃やしたくらいで酸欠になったりする事はないだろう。

 それなりの数の松明もどきを作って小屋へ戻ると、


「あ、お兄さん! リディアに頼まれた、ちょっと深めのお鍋が出来たよー!」


 早くもニナが鍋を完成させていた。


「ニナさん! ありがとうございますっ! これで、アレックスさんに美味しい煮込み料理を作ってあげられますっ!」

「待って。お兄さんにだけなの!? ニナには!?」

「あ……も、もちろんニナさんにも作りますよ?」

「むー……なんだか、ついでっぽい」

「そ、そんな事ありませんってば。ねぇ、アレックスさん」


 何故、リディアはそこで俺に振るのか。

 完全なとばっちりではないかと思いつつ、リディアの美味しいご飯を皆で食べたいという話で何とか収めた所で、


「アレックスさん。今、居られますか?」


 不意に天井付近からタバサの声が聞こえて来た。


「お兄さん? これは?」

「ニナさん、お静かに。アレックスさんが住んで居た街の、冒険者ギルドの方からの通話魔法ですよ」

「……なるほど。じゃあ、部屋の隅で静かにしとく」


 キョトンとした表情で天井を見上げるニナへ、リディアが説明してくれたので、


「あぁ、居るぞ。どうしたんだ? こんな中途半端な時間に」


 俺はタバサと会話を始める事に。


「えぇ、ちょっとご相談がありまして。ちなみに、時間は今回の方が普通と言いますか、前回がイレギュラーだったんです」

「そうか。まぁ確かに前回は朝一だったしな」

「まぁそれはさておき、本題です。率直に言います。前にお伝えした、そちらへ……アレックスさんの元へ行って依頼のお手伝いをすると言っている女性の一人が、エリーちゃんです。どうですか? 来て欲しいですよね?」


 タバサの言葉で、前回と同じ様にリディアがピクンと小さく反応し、不安そうな目を向けて来る。

 だが、前回は女性が来てもする事がないという意味だったが、エリーだと話は別だ。

 むしろ、地下洞窟の探索に来てもらいたいとさえ思う。

 しかし、それは無理な話だろう。


「エリーがそう言っているのか? 手伝ってくれるという申し出は有り難いし、凄く助かるが、それはマズいだろう」

「え? マズいとは?」

「そのままの意味だ。エリーはローランドと恋仲なのだろう? それなのにエリーがこっちへ来て、しかも帰れないとなれば、トラブルになるのが目に見えているからな」

「…………は?」


 エリーについて至極当然の事を言ったつもりなのだが、何故かタバサの言葉が止まる。

 あれ? 俺、何か変な事を言ったか?

 少し困り、助けを求めるようにリディアたちへ目を向けるが、二人とも俺と同じようにキョトンとしている。

 ……リディアに至っては、少し嬉しそうにしている様にも見えるが。

 それから沈黙が続いた後、


「あの、エリーちゃんとローランドさんが恋仲って、どうしてそう思うんですか?」


 ようやくタバサが言葉を続ける。


「どうして……って、本人から聞いたからな」

「エリーちゃんが、そう言ったんですか?」

「いや、ローランドから聞いた」

「あのバカ……そういう事っ!? アレックスさん! それは違います! エリーちゃんは……」

「エリーは?」

「……ま、また連絡しますっ!」


 何故かタバサが話を中断してしまった。


「リディア。さっきのは、どういう意味だったのか分かるか?」

「……知りませんっ!」


 何故かリディアが頬を膨らませながら、上目遣いでジッと俺の目を見つめてくる。

 何だ? タバサもリディアも、どういう意味なんだっ!?

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