挿話97 ジョブチェンジについて話を聞くアーチャーのベラ

「……では、こちらが報酬になります。お疲れさまでした」


 ギルドで請けた依頼の報酬を受け取り、倒した魔物の素材の換金を済ませると、二人が待ついつもの酒場へ。

 そこではイライザが涙を流しながらお酒を飲み、グレイスがいつも通り無表情でグラスを傾けていた。


「えっと、イライザはまた泣いてるの? そろそろ慣れようよ」

「ですが……今まで、薬草摘みの最中に見つけた食べられる草を煮込んだスープと硬い黒パンばかり食べていたのに、今はお二人のおかげでお店で食事が出来るようになったなんて。感謝しかありませんよ……」

「……ご飯は大事。明日への活力」


 イライザは泣き上戸らしくて、お酒を飲む度に泣き出すのよね。


「ところで、イライザ。プリーストのステラが一時的に離脱して、ダンジョンとかに潜れなくなった分収入は減ったけど、その分リスクも大きく減って安定して稼げているわ。このままで、普通に暮らして行くには十分だと思うけど……やっぱりジョブチェンジはするの?」

「そう……ですね。今って、低位の魔物退治と薬草摘みの依頼を同時に受けて、魔物を倒しながら薬草を摘んで、怪我をしたらその薬草で治して……って、私がアコライトである必要性が無いと思うんです」

「そ、それはごめんね」

「いえ、そういう意味では無くて、私がどんなジョブでも今の生活は成り立つなーって思いまして。だったら、尚更ジョブチェンジにチャレンジしてみても良いのではないかと思いまして」


 なるほど。私は、お金は沢山あった方が良いけど命の方が大事だから、仮にイライザがジョブチェンジに失敗したとしても、本人が私たちとパーティを組み続けたいというなら、全然構わない。

 ステラも、いつ戻って来られるか分からない状況らしいし、イライザが真剣にジョブチェンジを望むのなら、付き合ってあげても良いかな。


「ところで、ジョブチェンジ出来る場所については何か分かったの?」

「……まだシーナ国の何処かという所まで。でも、実在するのは間違いなさそう。調べた所によると、現存する聖女の一人が、このジョブチェンジによって聖女になれたらしい」

「聖女様にもなれるの!? それ、めちゃくちゃ凄いんじゃない!?」

「……ただ噂によると、元々聖女のジョブを授かって居た訳ではないから魔力が低くて、聖女のスキルを使えるようになるまで苦労していたとかなんとか」


 あー、なるほど。私だってアーチャーっていうジョブを授かってから、弓矢の訓練ばっかりしてきたけど、今からプリーストです……って言われたって、魔法の使い方だって分からないし、そもそも魔力だってないもんね。

 反対に、グレイスが今からアーチャーになったとしても、先ずは矢を飛ばす練習から始めないと、いきなり弓矢が使える訳ないって事か。


「ん-、そう考えると、ジョブチェンジで良いジョブに成れたから、すぐに人生バラ色! っていう訳ではなくて、そこから凄い努力が必要なのね」

「でも、努力さえすれば何とかなるっていう可能性がありますからね。今の私は、どれだけ努力しても物理攻撃のスキルなんて得られないし、そこの差は大きいと思います」

「……でも、聖女の話は良い例だけど、悪い例もある。聞いた話では、ジョブチェンジしたら娼婦っていうジョブを授かった人も居るとか」


 しょ、娼婦って。

 いやいや、そんなジョブがあるの!? ……ん? という事は、そういう夜のスキルが存在するっていう事なのね?

 どんな男でも掌で転がすように手玉に取れるスキルとか?

 それとも、魅了スキルとかかな?

 あ! 自分が望んだ相手からしか妊娠しないスキルとかだったら欲しいかも。今は使う相手が居ないけど、未だ見ぬ未来の旦那様の為に、そこら中の人で練習が出来るようになるしね。


「ちなみに、イライザは希望のジョブとかはあるの?」

「いえ、贅沢は言いません。接近戦のジョブなら何でも」

「そうなんだ。仮に私がジョブチェンジするとしたら……うーん。弓矢を使う上位のジョブかなー。ハンターとか、スナイパーとか。グレイスは?」


 軽い気持ちでグレイスに話を振ってみると、


「……お姫様」

「え? グレイスは何て言ったの?」

「……な、何でもない」


 一瞬変な言葉が聞こえた気がしたけど……気のせいらしい。

 何にせよ、ジョブチェンジはもっと情報が必要ね。

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