第466話 リディアのおうち作り

「≪エクス・ヒール≫」

「パパー、だいじょうぶー? いたいのいたいの、とんでいけー!」

「ダメかもしれん……モニカは? モニカは居ないか? イネスの所へ連れて行って欲しいのだが」


 昨晩が満月だった為、訳が分からなくなる程多い、分身たちと感覚を共有し、地獄のような腰痛に襲われている。

 とりあえず、ステラの人形が高位の治癒魔法を使ってくれたり、ユーリが天使族に伝わるという、治癒術を試してくれているのだが……うん。本当にダメだな。

 ただ、二人のおかげか、立ち上がって歩く事くらいは出来るようになったが。


「治癒魔法は怪我などには効きますが、持病や病気などには効きにくいです。腰痛は……神聖魔法よりも、イネスさんのマッサージの方が効くかもしれませんね」

「そうかもしれないな。でも、少し楽になったよ。あと、ユーリの治癒術も効いている気がするしさ」

「ホントー!? パパー、ユーリがパパのこしを、らくにしてあげるからねー!」


 そう言って、ユーリがずっと俺の腰に抱きついているのだが、


「んー、うしろからだと、ユーリが、とびつづけないといけないからー……そうだ! まえからしよーっとっ!」


 何を思ったのか、正面から俺の腰というか、腹の辺りに抱きつき、小さな腕を伸ばして俺の腰を撫でてくる。

 とりあえず抱きつく場所が悪すぎるというか、そこは移動中に結衣が抱きついてくる場所なので、その……うん。ユーリに変な事をする訳がないから、リディアは俺に悲しそうな顔を向けるのは止めような。


「リディア。改めて、ありがとう」

「ふぇっ!? な、何の話ですか?」

「何……って、お腹の中に居るんだろ? 子供が」

「……は、はいっ! そ、その通りです。え、えっと、だからと言って、安静にするようにと、昨晩私にだけしてくれなかったのは寂しいです」


 いや、最初が肝心というか、物凄く重要という話は良く聞くからな。

 とりあえず、リディアが快適に過ごせる場所を探さないといけないのだが、やはりエルフだし、森の中だろうか。


「そういえば、暗くてよく見えなかったが、崖の上に森などはあるのだろうか」

「えっと、一応ありましたよ。ヴィクトリアさんたちが居たテントからは少し離れた場所ですけど」

「なるほど。では、そこにリディアが安静に過ごす為の家を建てて貰わないとな」

「えっ!? アレックスさん!? アレックスさん!?」


 リディアが無いやら慌てているが、気持ちは分かる。

 自分が住む家だからな。

 俺としては、早く聖水を溜めてもらって、シェイリーに魔法陣を繋げてもらい、リディアを安全な魔族領へ連れて行きたいのだが……すぐには難しいだろう。

 一時的とはいえ、リディアを守る為の家だから、しっかり作ってもらわないとな。


「……なるほど。リディアさんの為だねー。おっけー! ボク、頑張るねー!」


 事情を説明すると、ノーラの人形が頑張ると言ってくれた。

 ただ、ここはシェイリーの魔法で木を生やしたり出来る訳ではないので、伐採には気を付けないとな。

 木を切りすぎると、リディアが悲しむし、石の壁と上手く併用していかなければ。


「そういう事なら、ニースも頑張るー! 石と木だと、接合部分が不安だから、鉄で上手い事補強するよー! ただ、海が近いからねー。錆が心配かもー」

「おぉ、助かる。ただ、錆びか……ヴィクトリアはこの辺りに住んでいる訳だし、聞けば何か対策を教えてくれるかもしれないな」


 ニナの人形、ニースも手伝ってくれるそうなので、改めて崖の上に移動する事に。

 だが、それにしてもモニカは本当に何処へ行ったんだ? まずはイネスにマッサージしてもらわないと、家作りの手伝いもままならない状態なんだが。


「あ、あの、皆さん。そ、そんなに頑張らなくても……」

「リディアは、ゆっくり安静にして、お腹の中の子を守る事に専念して欲しい。そんなリディアを守る為に、俺が――夫が居る訳だからな」

「夫……は、はいっ! ……じゃなくて、いえアレックスさんは私の夫なんです。けど、何というか、その……」


 リディアが何やら困っているので、どうしたのかと思ったら、坂の上からレヴィアが降りて来た。


「アレックス。モニカ、居た。崖の上で、ヴィクトリアたちと変な事してる」

「変な事?」

「昨日、決着が着かなかったから、その続きだって」


 あー、あの第一夫人がどうこうって話か。

 とりあえず、モニカに合流しないとな。

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