第882話 ザガリーの別荘その二

 ザガリーの別荘の一つは、表にいる兵士を除けば、中に居るのは大人も子供も含めて全員女性だった。

 ひとまず、子供たちに何か危害が加えられている訳でもなさそうなので、ミオに残ってもらい、俺たちは別の別荘を見に行く事に。


「地図によると、ここだと思うのだが……先程の別荘よりも、中庭が広いな」

「うぅ。ここは……な、中に入るの?」


 太陰の力で姿が消えているので、正面から中へ入ろうとしたのだが、助けた少女が顔を顰める。


「もしかして、君はここに居たのか?」

「うん……あのね。ここは地獄なの。無理矢理机に向かわされて、算術や語学の勉強をさせられて、時にはみんなで踊らされたり、絵を描いたり、歌を歌ったり……」

「……割と普通の学校のような内容なのだが」


 俺も幼い頃は、エリーと共に学校で勉強していたし、そのおかげで文字が書けて計算が出来るのだが。


「もしかしたら、ここも孤児院なのかもしれないな」

「そうですね。ひとまず中を見てみましょう」

「えぇーっ!? お兄ちゃん。ずっと離さないでね?」


 デイジー王女と意見が一致し、二つ目の別荘の中へ。

 この孤児院から来たと思われる少女は、マリーナと共に俺から離れず、ぎゅっと抱きついてくる。

 聞いた感じでは、それ程酷い施設には思えないのだが……うん。中を覗いて見ても、そのまんま学校だった。

 少し特異な点があるとすれば、一つ目の別荘と同じく、女性や少女しかいない事だろうか。

 先程は五歳くらいの幼い女の子ばかりだったが、ここでは十歳前後に思える女の子たちが勉強に励んでいる。


「ほ、ほら! 見て、お兄ちゃん! あんなに難しい問題を、皆の前で答えさせるんだよ!?」

「あー、まぁこの歳なら相応じゃないか?」

「えぇっ!? でも、三十個のリンゴを七人に配った余りなんて……実際に配ってみないと分からないよ!?」


 大きな緑の板に、白墨の棒で書かれた問題を見て少女が嘆いているけど……その、頑張ろうな。

 第四魔族領でも、こういった初等教育をメイリンが担ってくれていたけど、妊娠してからは控えていたはずなので、また誰かに依頼しなければ。

 ……第四魔族領で思い出したけど、早くモニカを元に戻して戻らないと、そろそろエリーたちが怒りだしそうな気がする。

 早く……早くドワーフの女性たちを連れて帰ろう。


「マリは、ここで様子を見ていればいいのー?」

「あぁ。太陰の力でマリーナの姿は俺たち以外に見えないし、出来るだけ早く戻って来るから、変な事が行われていないかを見ていて欲しい」

「わかったー! ……アレックスの分身は置いていってくれないの?」

「それは、いろいろとマズいから、やめような」

「えぇー」


 十歳くらいの少女たちが居る、この場所をマリーナに見ていてもらう事にして、最後の別荘へ移動する。

 ちなみに、助けた少女が俺から離れてくれないので、ひとまず一緒に連れてきているが、この別荘を含めて、後でデイジー王女に相談させてもらおう。

 それから、三つ目の別荘へ来たのだが……ここは先程の二つの別荘とは雰囲気が違った。

 これまでの別荘のように、門の前に兵士が一人だけ立っているのではなく、警備が厳重というか、複数の兵士が巡回している。


「どうしてここだけ、こんなに兵士が……場所の問題なのか?」

「中の人に聞いてみたら分かると思うし、聞いてみよー」


 これまで同様に太陰の力で中へ入り、高い位置にある小さな窓から中を覗いてみると……次は十三歳前後の少女たちばかりだった。

 ただ大きく違うのが、これまでは大きな部屋に十数人の少女たちが居たのだが、ここでは小さな部屋に三人ずつ……大人の女性が一人と、全裸の少女が二人。

 どうやら、女性の指導に従い、少女同士が互いに舐め合って……これは、デイジー王女たちに見せられないな。


「アレックス。中はどうだったのー? 窓が高すぎて中が見えないんだけど」

「……ちょっと、ここはこれまでの場所とは違うみたいだ。中は見ない方が良い」

「そうなの? 何となく察しているけど、私は予想通りだよ? 話を聞く限り、そのザガリーって人が、慈善事業だけで終わる訳ないし。おそらく、先の二つの場所で基礎教育を終えたら、ここで真の目的の勉強をさせている感じなんでしょ」


 太陰から辛辣な予想が出て来たが、確かにそういう事なのかもしれない。

 ひとまず、太陰にデイジー王女たちを見ていてもらい、中に居る女性に話を聞く事にした。

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