第881話 ザガリーの別荘その一

 ザガリーの別荘の一つに入ると、幼い……おそらく、五歳か六歳くらいだと思える女の子が十数人居た。

 全員、水色の服を着ていて、本を読んだり、積み木で遊んだりしている。

 ただ、部屋の隅に二人だけ二十歳くらいの成人女性がいて、子供たちを監視……いや、見守っているようだ。

 ミオや太陰と共に、これは何だ? と首を傾げていると、女性の一人が立ち上がる。


「はーい! じゃあ、そろそろお片付けの時間でーす! みんな、上手に片付けられるかなー?」

「はーいっ!」

「じゃあ、十数える内にお片付けしましょう! いーち……」


 ピンクのエプロン姿の女性がゆっくり数字を数えている間に、幼い女の子たちがそれぞれの持ち物を片付けていく。

 何だ!? これは一体何なんだ!?

 一旦、外に出て扉を閉めると、連れて来た女の子に尋ねてみる。


「君が居たのは、ここなのか?」

「ううん。こんなに小さな子はいなかったよ?」

「あの、成人女性に聞いてみるのが一番早いと思うのじゃ。フョークラとは違って薬は使わぬが、我も情報を聞き出すのは得意なのじゃ」


 ミオがニヤリと笑みを浮かべるが、ちょっと怖いんだが。

 特に害意がある感じはしないし、普通に話を聞けないだろうか。


「ひとまず、あの子供たちの前で変な事をするのはダメだ。少し様子を見よう」

「ふむ……他の者を探してみても良いのではないか?」

「そうだな。他にも部屋があるみたいだしな」


 姿が消えているので、他の部屋を順番に覗いてみる。

 やたらと大きなキッチンに、大きなお風呂、やたらと数が多いトイレ……あと、中庭のような場所には、よく分からないオブジェが沢山あった。

 結局、見ただけでは訳がわからなかったのだが、その中の一つに先程の子供たちだらけの部屋とは対照的に、成人女性しかいない部屋があったので、誰かが出て来るまで待つ事に。

 少し待つと、女性の一人が出て来たので、静かに口を塞ぎ、物陰へ。


「――っ!?」

「驚かせてすまない。我々はこの場所の調査をしている者だ。協力してくれないか?」

「……」

「わかったら頷いてくれ。そうすれば、手を離す」


 怯えながらも女性が頷いたので口から手を離すと、俺たちの姿が見えていないからか、虚空を見つめながら話し始める。


「あの、ここはメリナ商会が運営している孤児院なのですが……何か別の施設と勘違いされていないでしょうか?」

「孤児院? ザガリーは別荘だと言っていたのだが」

「ザガリー様は、メリナ商会の最高責任者ですよね? ザガリー様だけが使用を許されている寝室がありますし、別荘と言えば別荘かもしれませんが……」


 うーん。ひとまず、騎士隊長から貰った地図は合っていそうではあるのだが、事情を知らぬ者からすれば慈善事業に映るだけに、やり難いな。


「……先程、孤児院という話をしていたが、女児ばかりに見えるのだが」

「基本的に男児は自力でお金を稼ぎますし、家の跡取りとなります。悲しい事ではありますが、口減らしで捨てられるのは、女の子の方が多いのではないかと」

「口減らし……か。ここに来る子供たちは、どういう経緯で来るんだ?」

「そこまでは私もわかりません。基本的に、ザガリー様が騎士さんたちと共に子供を連れて来るので、迷子などが保護されて来ているのではないかと」


 あー、確かに騎士も同行しているんだけど、さっきの騎士隊長の話を聞く限り、ザガリーの護衛として来ているだけなんだよな。


「……ところで話は変わるが、君はメリナ商会に雇われているという事だな?」

「はい、そうなります。といっても、ここで働いている者は、あくまで孤児院の運営ですので、メリナ商会の本店や支店などには入れませんし、入った事もありませんが」


 ふむ。この女性が嘘を吐いているようには見えないし、メリナ商会の裏の顔は一切知らないのだろう。

 ひとまず礼を言い、無理矢理話を聞いた事を謝罪して、女性を解放した。


「……デイジー王女。ザガリーは失踪し、メリナ商会は奴隷売買をしている組織でした。家に帰れる子供は家に帰し、何らかの事情で帰れない子供は国で保護出来ないでしょうか」

「お任せください! アレックス様がそうせよと仰るのであれば、そうするように働きかけます!」


 う、うーん。望む答えではあるのだが、本当に大丈夫だろうか。

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