第880話 実験フョークラ

「待たせたな。これがザガリーの別荘の場所だ。街の中に三か所あり、何処に何人居るかまでは知らないが、この三つ以外にはないはずだ」

「そうか、わかった。ひとまずこれについては礼を言う。だが、人々を守る騎士でありながら、見返りの為に人身売買を見て見ぬふりどころか、その首謀者を護衛していたというのは……許せんっ!」

「うわぁ……アレックス様。気持ちはわかりますけど、今の一撃は死んじゃいますよ? 私としては、別に構いませんが」


 騎士隊長の話を聞き、つい拳に力が入り過ぎてしまった。

 即死……ではなさそうだが、ピクピクと痙攣しているので、フョークラの言う通り、確かにやり過ぎだったかもしれない。


「≪ミドル・ヒール≫」

「アレックス様。流石にこの状態だと、中位の治癒魔法では無理です。とりあえず、命を取り留める程度には回復させますね」

「すまない。宜しく頼む」

「いえいえ。まぁぶっちゃけ、これも実験……こほん。では、この薬を飲ませ……あれぇ? どうして吐くんだろ? 物凄く美味しい上に、効果抜群の薬なのに。アレの量を間違えたのかなぁ?」


 フョークラが恐ろしい事を言いながら、倒れた騎士隊長に薬を飲ませているが、瀕死にさせてしまった俺には何も言う権利がないので黙っておく。

 暫く試行錯誤が続き……フョークラが立ち上がる。


「お待たせしました。もう大丈夫ですよ」

「ありがとう。助かったよ」

「いえ、私も新たな知識が得られて良かったです。万能だと思っていた、ある薬の材料があるんですが、女性には凄く効くのに何故か男性には効かないという事が判明しましたので」


 何かレイが似たような話を言っていたような気がしつつも、今はザガリーの別荘へ向かう事に。

 だが、フョークラは女性騎士たちで実験を続けたいと言い、オティーリエと共に騎士団の詰所の近くで待っていると言う。

 グレイスが一緒に来てくれていれば、馬車を出してもらって女性騎士たちも連れて行く事が出来たのだが……今更無いもの強請りは仕方がない。

 とはいえ、レイチェルの屋敷にいるはずなので、迎えに行くという手もあるが……今は別荘だな。少女たちを助けないと。


「ここ……か? 地図では合っていると思うのだが……」

「アレックス様。私が参ります。万が一違ったとしても、私ならば大事にはならないでしょうから」


 ザガリーの話では別荘だという事だったが、普通に貴族の屋敷だと言われても納得出来てしまう程の大きさがある。

 なので、間違ってザガリーと全く関係のない貴族の家だった時の為に、デイジー王女が門番に話し掛けた。


「あの、こちらはザガリー様の別荘で合っておりますでしょうか」

「ん……で、デイジー王女様っ!? ち、ち、違いますっ! こ、ここはデイジー王女が思っていらっしゃるような場所ではなく、ざ、ザガリー様とは少しも、これっぽっちも関係のない普通の家です」

「そうですか。教えてくださって、ありがとうございました」

「い、いえいえいえ。ザガリー様は別荘などお持ちではないと思いますので、探す意味などはないかと思います」


 門番と話したデイジー王女が戻ってきて、ザガリーの別荘ではなかったと言うが……いや、その割には門番の動揺が酷すぎたが。

 門番を殴り、門を破壊して中へ入っても良いのだが、万が一……万が一別荘でなかった場合に困るな。

 俺だけならどうにでもなるが、デイジー王女に迷惑は掛けない方が良いだろう。

 そう考えていると、太陰が口を開く。


「んー、この中へ入るなら、一時的に皆の姿を見えなくしようか? さっきも言ったけど、それくらいなら余裕だよ?」

「では、お願いしても良いか? 俺だと、何処かの壁を破壊して入る事になってしまう」

「うん。任せてー! えーい」


 太陰が俺たちに向かって何かしたようだが……何も起こらない。


「えっと、太陰? 何も変わっていないように思えるのだが」

「あー、私の力で姿を隠された者同士は見えるんだよ。大丈夫だから行こー!」


 そう言って、太陰が門へ向かい、人が通れる程度の隙間を開ける。

 だが、二人いる門番が何も言わない。

 俺たち同士では何も起こっていないように思えるが、確かに見えていないようだ。

 という訳で門の中へ入り、そのまま建物の中へ……って、これは、何だ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る