第713話 ブラックドラゴンの呪い

 ブラックドラゴンの身体から、黒い何かが噴き出る。

 黒い霧のような何かは、俺たちに……来ないで、ふよふよと上に向かって飛んで行く。


「あれ? 何かの呪いではなかったのか?」

「はい。あの黒い魔力は間違いなく呪いです。その効果まではわかりませんが、かなり強力なものだと思います」


 シアーシャが黒い霧を呪いだと断言し、厳しい視線を送る。

 だが、だからこそ止めを刺したザシャへ向かって行くと思ったのだが、明後日の方向へ向かって行った。


「……一応、後を追うか。ザシャ。飛行魔法を頼めるか?」

「んっ、了解~~~~!」

「……って、待った! この状態で俺の分身だけ飛ばすんじゃないっ!」


 俺の分身に抱きついて離れないザシャが、アレを挿れたまま浮かんでいこうとしたので、流石に止めようとしたのだが、ザシャに俺の声が届いていない!?

 だが黒い霧はどんどん上空へ向かって行くし、ディアナも俺を放してくれないし……仕方がない。

 ディアナを抱えたまま俺の分身の脚を掴んで、一緒に浮かんで行く。


「パパー、まってー! ユーリもいくのー!」

「わ、私もっ! これ以上、日光の下に晒されると、死んじゃいますのっ!」

「アレックス! ヴァレーリエだけズルいのじゃ! 我らにも分身を残していくのじゃ!」


 ユーリとシアーシャが俺の背中に抱きつき、ミオが頬を膨らませながら俺の脚を掴む。

 飛べない俺の脚を掴むのはマズいと考えて分身を数体出すと、ミオが手を放して分身たちのところへ行ったので、ザシャ、ディアナ、俺、ユーリとシアーシャの五人で霧を追う事に。

 とはいえ、ザシャが俺の分身にしがみ付いていて、全く黒い霧を見ていないので、俺がザシャに行き先を指示しながら黒い霧を追って行く。


「アレックスさん……ザシャさんとディアナさんだけズルいですの。あと私は、もう力が……」

「シアーシャ!? も、もう少し頑張れ! 地面に降り立ったら、ザシャに闇を出してもらおう」

「わ、私はアレックスさんにアレを出して欲しいですの」


 シアーシャは治癒魔法で回復が出来ないから、中々に困るな。

 ディアナはしっかり俺にしがみ付いているので、左手でシアーシャを差さえ、右手で分身の脚を掴んだまま飛んで行くと、岩山の中腹に黒い霧が吸い込まれて行った。


「パパー! このいわ、にせものー!」

「えっ!? そうなのか!?」

「うん! まほうでつくった、まぼろしだよー!」


 ユーリに教えてもらい、大きな岩に向かってザシャに飛んでもらうと、聞いていた通り岩をすり抜け、洞窟の中へ。

 分身を解除するとザシャが不満そうにしていたが、飛行魔法も解除して歩いて洞窟の奥へ。


「にーに。後で、さっきのまたしてね」

「ディアナ。何があるか分からないから、少し静かに」

「はーい!」


 元々行動が幼いディアナだったが、地面に降ろしても物凄く甘えてくるようになってしまった。

 だが、今はディアナには自分で歩いてもらい、辛そうにしているシアーシャを抱きかかえて先へ進む。


「アレックスさん。私もディアナさんやザシャさんのように歩きながらしてもらいたいですの」

「……あ、後でな」

「うぅ。ここは日光こそ当たりませんが、今の私はかなり辛い状態のに……」


 そんな状態で洞窟を進んで行くと、何かの気配が。


「――っ! ぅぁぁぁぁっ! た、助け……」


 誰かは分からないが、奥から苦しむ少女の声が聞こえてきた。

 慌てて奥に向かって走って行くと、鉄格子の奥で一人の少女が苦しんでおり、その少女によく似た女性が横たわっている。


「アレックスさん! 先程の呪いですの! あれがこの少女の中に!」

「≪ディボーション≫……なっ!? 防御スキルが弾かれたっ!?」


 苦しむ少女に、ダメージを肩代わりする防御スキルを使用したのだが、そのスキルが効かなかった。

 おそらく、この呪いのせいだと思うが……ひとまず、この鉄格子を斬る!


「はぁっ!」


 剣を一閃して鉄格子を斬ると、中へ入って少女に駆け寄る。


「≪ミドル・ヒール≫、≪リフレッシュ≫……治癒魔法も効かないのか!」

「アレックスさん! 念の為、触れないでください! 呪いを解析してみますの」

「パパー! ユーリもなんとかしてみるーっ!」


 シアーシャとユーリが、それぞれ呪いを解こうと頑張ってくれている。

 呪いについては、俺が出来る事は何も無さそうなので、もう一人の、眠ったようにして倒れている女性に目を向け……


「ダメだ。こっちはもう……」


 ザシャがもう一人の女性は、既に亡くなっている事を告げた。

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