第665話 ラマスの街

「ぐぁっ! そんな……バカな」


 駱駝耳族の男が決闘だと言いながら、何故かユーリに手を伸ばしてきた。

 なので、その手を払いのけたら……男が腕を押さえ、目を見開いて倒れ込む。

 いや、まだ殴ってないし、本当に払い除けただけなんだが。


「すまん。もしかして、元々手を怪我していたのか? ≪ミドル・ヒール≫」

「なっ……折れた腕が治った? その腕力と治癒魔法……お前のジョブは、体術と治癒魔法を扱うモンクか! ならば……」

「いや、パラディンだが」

「ふざけるなっ! だったら、どうして素手の一撃で俺の腕が折れるんだっ! 俺は腕力に特化したジョブなんだぞっ!」


 素手の一撃と言われても……あっ! よく考えたら、こいつは駱駝耳族だ。

 ビースト・キラーのスキルで、俺の攻撃力が増加しているのか。

 俺自身は攻撃している認識が全く無いのだが、その……獣人族に対するアレも強くなっているみたいだからな。

 だから、何人もの女性が俺についてきて……げふんげふん。


「あの、もう勝負あったみたいですし、この方たちを通していただいて良いですよね?」

「くっ……し、仕方がない。わかった……通ってくれ」


 いやあの、俺はまだ何もしていないんだが……男から怯えた目を向けられるので、流石にこれ以上は何も出来ず、先へ進む事にした。


「すまないな。案内してくれて助かったよ」

「いえ、お気になさらず。……そ、それよりも、またこの村へ来ていただけますでしょうか? そして、子種をいただけると嬉しいです」

「か、顔は見せるようにするよ」

「はいっ! 宜しくお願いしますっ!」


 次期村長の女性に礼を言い、通路を進む。

 聞いていた通り、分岐も何もない真っ直ぐな道を進んで行くと、暫くして開けた場所に出た。

 ここがラマスという街の地下だろうか。

 周囲を見渡すと、犬耳の男性が居たので聞いてみる。


「あぁ、ここがラマスの街だ。いろんな獣人が住む街だが、人間族は珍しいな。……レアな種族は誘拐事件なども起こり得る。十分気を付けるようにな」

「わかった、ありがとう」


 なるほど。つまり、グレイスやユーリが狙われる可能性があるのか。

 モニカが遅れをとる事はなさそうだが、二人は特に気を付けないといけないな。


「ユーリ、グレイス。俺から離れないように」

「もー、パパー。もとから、だっこされてるから、はなれようがないよー」

「アレックス様。では手を……手を繋いでいただけると嬉しいです」


 抱っこしているユーリが、ぎゅーっと抱きついてきて、空いている右手をグレイスが握ってきた。

 一先ず、この中で一番狙われやすそうな二人は大丈夫かな。


「ご主人様。私も……」

「モニカも十分気を付けてくれ」

「そ、その、逸れたりしなように、手を繋いで欲しいのですが」

「……すまない。あいにく手が塞がっているんだ」


 左腕でユーリを抱っこし、右手はグレイスの手を握っているからな。

 それに、モニカは手を繋いだりしたら剣が使えなくなり、かえって危ないのではないだろうか。


「うぐっ……何故だ。何故、ご主人様は私の扱いがぞんざいなのだ!」

「あの、モニカさん。お言葉ですが、日頃の行いのせいだと思うんですの」

「な、何を言う! シアーシャ殿。私は常にご主人様の事だけを考えているのだ!」

「……えっと、あの紐みたいな服で干からびていたのも?」

「勿論だ! 日焼けの跡はエロい! きっとご主人様に喜んでいただけると思ったからこそ、炎天下の下に身体を投げ出したのだ! 見るが良い! この日焼けの跡を!」


 後ろでモニカとシアーシャが何か話しているな……と思いながらも、冒険者ギルドなどで情報収集するため、地上への道を探す。

 ……が、わからないので、近くに居た男性に道を教えてもらっていると、


「ご、ご主人様っ! ご主人様ぁぁぁっ!」

「アレックスさん! 大変ですっ! モニカさんがっ!」


 遠くからモニカの叫び声が聞こえて来て、シアーシャが俺を呼びに来た。

 まさかモニカが遅れを取るような人攫いなのか!? と、慌ててモニカの元へ走ると、


「ご、ご主人様っ! た、助けてくださいっ!」

「……公共の場で、服を脱ごうとするなんて何事なの!? ちょっと詰所まで来てもらうわよ!」


 犬耳の女性兵士二人にモニカが腕を掴まれており……俺も全力で謝る事になってしまった。

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