第400話 分身の活用方法

 ナズナに連れて行かれたのはカレラドの街の中心にある、大きな宿屋だった。

 この街で一番大きな、三階建ての建物の最上階に向かって……って、どこへ行くんだ?


「アレックス様、こちらです」

「こちらです……って、こんな所へ上がって良いのか?」

「はい、もちろんです。宿屋の主人に許可はいただいておりますから」


 三階の廊下にある窓から外へ出ると、従業員専用の階段を上がって屋上へ。

 おそらく洗濯物を干すのに使っているのだろう。

 あちらこちらに物干し台があり、沢山の毛布が掛けられている。


「あっ! アレックス様ぁぁぁっ!」

「……大好き」


 そんな屋上の真ん中にエミリアとロザリーが居て、目が合った途端に飛びついて来た。

 そう思ったら、ナズナとカスミにソフィも……いや、何をする気なんだよっ!


「お兄さん。昨日の相手は近付くと、操られる可能性があるでしょ? でも捜索ならカスミちゃんが分身を使ってするのが一番手っ取り早い……という訳で、今朝の馬車と同じ作戦が最適かなーって」

「ナズナも参加するのか?」

「もちろん! ナズナちゃんも分身が使えるもの」


 つまり、カスミとナズナに飲ませるから分身を使えという事か。

 で、俺が分身を使うと、六人になってしまうから、残った四人をソフィたちに……って、足りなくないか?


「マスター、ご心配なく。私が二人分です」

「いやまぁ、ソフィなら大丈夫だろうけどさ……って、ロザリー!? ……はぁ分身」


 早くしろと言わんばかりにエミリアとロザリーが迫って来たので、分身を使用し……カスミとナズナの分身が屋上から飛び降り、街の中を駆け回っていく。

 ちなみにカスミは分身を五体出しているが、ナズナは一人だけ……というか、分身を一人扱えるだけでも凄いんだけどな。

 それから、今朝の馬車の中のような状態になったところで、


「……旦那様、しゅごい」


 早くもロザリーが気を失った。

 それからエミリアも気を失ったところで、


「――っ!? お母さん、今一瞬変な感じが……」

「奴ね!? ナズナちゃんの分身の所に奴が居るのね!」

「ナズナ、大丈夫か!?」


 ナズナがビクンと身体を震わせた。


「ナズナちゃん! 狼煙を上げてっ! 分身を向かわせるわっ!」

「ち、違うの。突然、大きいのが……」

「あ……すまん。俺の分身か」


 ロザリーとエミリアが気を失い、相手が居なくなってしまった二体の分身がナズナとカスミの所へ来たから……何かスキルを受けた訳では無かったのか。

 それから少しすると、今度はカスミがピクンと震える。

 俺の分身が居るので、先程のナズナと同じ事かと思っていると、突然カスミの分身が増えた。


「お兄さん、捕らえたわ。さーて、どうしてくれようかしら。カスミちゃんに悪戯してくれたものね」


 どうやらターゲットを見つけたので、対峙している分身を残して、一旦分身を出し直して説明用の分身を出してくれたようだ。


「俺もそこへ行こうか?」

「いえ、ちょっとここからは遠いから、気絶させて連れて行くわ……うん、もう大丈夫よ」

「じゃあ、俺も分身を解除するから、終わりにするか」

「え!? ま、待って。もしかしたら、気絶していても自動で発動するタイプのスキルかもしれないでしょ? お兄さん、このまま……というか、もう少し続けてよぉーっ!」


 カスミが……というか、カスミの代わりに喋る分身が、俺に抱きつきながら懇願してくる。

 今からここへ敵を連れて来るんだろ?

 俺としては、ちゃんと身構えておきたいのだが……相手のスキルがわからない以上、カスミの意見が否定出来ないのが困った所だ。

 仕方なく、そのまま続け……


「お兄さん、着いたわ。今、その扉の向こうに居るわ」

「分かった……という事は、気絶から回復したエミリアとロザリーにも俺のを飲んで貰った方が良いよな?」


 二人に事情を説明したのだが、拒否されてしまった。


「飲むのも好きですが、今はこっちが良いもん!」

「……もう少し待って」

「お兄さん、どうするー? カスミちゃんとしては、このまま続けていても良いわよー?」


 いや、時間も勿体無いので……仕方ない。

 複製スキルを使い、エミリアとロザリーの望み通り、続けたまま飲ませる事に。

 だが、俺の分身の方が多くなるので、ナズナが分身を使い、


「あぁぁぁ、しゅごい! アレックス様のが倍にっ! 無理無理無理……凄すぎて死んじゃいますっ!」

「なるほど。その手があったわね! お兄さん、カスミちゃんも分身にお願いっ! ……おほぉぉぉっ! 倍は効くぅぅぅっ!」


 カスミと共に大変な事に。

 そんな状態で、ビクビク身体を震わせるカスミの分身が、気絶した男を連れて来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る