第747話 ニナの故郷の手掛かり

 ニナと二人で狭いトンネルの中を歩いて行く。

 ドワーフのスキルで光苔が生えているので視界は問題ないのだが……


「……っと!」

「お兄さん、大丈夫ー? というより、今は弟みたいだけどねー!」


 子供の身体になっているからか、小さな段差に躓いてしまい、ニナの身体に抱きつく格好になってしまった。


「そうだ! ニナがおんぶしてあげよっか?」

「いや、大丈夫だってば」

「抱っこでも良いんだよー?」

「ニナ。心配し過ぎだから」

「あはは。どっちかっていうと、心配というより可愛がっている感じかなー? だって、ニナはいつもお兄さんを見上げているし、たまにはこういうのも良いなーって」


 結局、ニナと手を繋いで歩く事で落ち着いたのだが、俺が手を引かれる形になっている。

 うーん。俺が背の高い方だから、普段は巨人族のイネスくらいしか、俺が見上げる相手は居ないので、ちょっと変な感じがするな。

 ただ、その後も何度か躓いてしまったので、結果的に手を繋いでもらっていて良かったのだが。


「お兄さん。何か音が聞こえて来たね」

「……これか。何かを掘っているような音だな」

「うん。もうすぐ、お爺ちゃんがいるのかも!」


 ニナが嬉しそうに駆け出し、どんどんその音が大きくなっていく。

 それから二人で暫く走ると、壁に向かってツルハシを振るう男性が居た。


「お爺ちゃーん!」

「……」

「お爺ちゃんってばー! 聞きたい事があるんだー!」


 いやあの、ニナの祖父でもないのにフランク過ぎないか?

 だが男性は耳が遠いのか、ニナに気付かずツルハシを振り続ける。


「お爺……」

「ニナっ! 危ないっ!」


 気付かない男性にニナが更に近付くが、相手はツルハシで振るっている訳で。

 そして、振り被ったところへニナが近付いてしまっていたので、咄嗟にニナの手を引き……何とか避ける事が出来た。


「お、お兄さん。ありがと」

「回避出来て良かった。パラディンの防御スキルを使っておくべきだったな」


 地面に座り込んだ俺に、ニナが抱きついてきたところで、


「ん? 誰じゃ? お主らは」


 ようやくドワーフの男性……というか、お爺さんがが俺たちに気付いた。


「あ、やっと気付いてくれたー! あのねー、お爺ちゃん。聞きたい事があるのー!」

「何じゃ? 見たところ、こっちのお嬢ちゃんはドワーフのようだが、真銀なら自分で探さなければならぬぞ?」

「そういうのじゃないのー! ニナは、家に帰りたいんだけど、それが何処かわからないのー!」

「む? 迷子か? だったら、このまま真っすぐ引き返すのじゃ。ワシの孫が居るから、そこで道を聞けばよいじゃろう」

「そうじゃないんだってばー!」


 俺とニナが子供に見えるからなのか、それとも最初に迷子だと思い込んでしまったからなのか。

 それから二人で事情を説明し、ようやく迷子のイメージを払拭して、お爺さんがまともに話を聞いてくれる事になった。


「デュルフェ家……確かに鉄が採れる地域に多い家名じゃな」

「ニナは家に帰りたいんだけど、その鉄が採れる地域って、どの辺りなのかなー?」

「鉄は西大陸でも取れる場所が広いのじゃ。ひとまず、一番近い場所……と言っても、バラバラの方角に四か所くらいあるぞ?」

「えぇーっ!? そんなにもー!? お兄さん、どうしよー!?」


 うーん。せっかくなのでニナを故郷に帰してあげたいが、四つも回っているとかなり時間がかかってしまう。

 白虎の事もあるし、とりあえず、西の方角にある場所を教えてもらう……か?


「そうじゃな。とりあえずドワーフ国の本部へ行ってみてはどうじゃ? そこなら行き来するドワーフも多いし、何か分かるかもしれんぞ?」

「本部?」

「なんじゃ。ドワーフなのに知らぬのか? ドワーフの国々を纏めるドワーフ連合の本部が西大陸の中心地にあるのじゃ」

「そうなんだー。それって遠いのかなー?」

「歩いて行けばかなりかかるが、ドワーフの道を使えば良いじゃろ。この国の王に事情を話して使用させてもらえば良いのじゃ」

「なるほど! ドワーフの道があったね! すっかり忘れてたー!」


 ドワーフの道?

 何だろうか。ひとまずニナは分かっているみたいなので、後で聞いてみようか。

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