挿話19 混乱状態に陥り、幻覚を見るマジックナイトのモニカ

「くっ! 陽動かっ! オークのくせに小癪なっ!」


 ご主人様とエリー殿が前に居るオークの大群を倒しに行って、少しした後、横から新手のオークが現れた。

 とはいえ、オーク如き大した敵ではないので、燃焼魔法を灯り代わりにしてスパスパと斬り倒していると、巨大な影が視界に映る。


「なっ……まさか、オークキングだとっ!?」


 その名の通りオークどもの王で、知性があるという。

 投石機の使用や、陽動もこいつが居たからか。


「ニナ殿! ご主人様に応援を! リディア殿、援護を頼むっ!」


 相手はS級の魔物と、その側近であるオークの上位種たち。

 私一人では勝てる相手ではない。

 だが近付く敵を倒せと、ご主人様から任せられたのだ。

 一匹でも多く斬り捨てるっ!

 剣と魔法でオーク共を倒しまくっていると、


――CONFUSE


 聞き慣れない言葉を聞いた直後、いつの間にか実家に帰って居た。


「モニカお嬢様。お帰りなさいませ。お荷物をお預かりいたしますね」


 メイドたちに出迎えられ、手にして居た剣を渡すと、私の部屋へ。


「モニカお嬢様。申し訳ないのですが、その鎧の外し方が分からなくて……」

「いや、気にするな。これくらいは自分で脱ごう」

「恐れ入ります」


 実家では鎧なんて身につけていないからな。メイドたちが知らないのも当然だろう。

 留め具を外して、窮屈な鎧を脱ぐと、久々に胸が解放される。


「また大きくなってしまったのだろうか。そろそろ鎧を新調しないといけないな」

「まぁ……モニカお嬢様。まだ大きくなるのですか? 羨ましいです」

「いや、ところがそうでもないんだ。私の想い人は、どうやら小さな胸が好みらしくてな」

「そうなのですか!? 少々変わった方なのですね」

「そう言わないでくれ。あのお方は、私の命の恩人。あのお方の好みになれるようにと、胸を小さくするマッサージを研究中なのだ」


 普段は一人でしている事だが、女性同士だし、見せても構わないだろう。

 それに、目の前に居るメイドは、男性と見間違える程に胸がない。

 何か胸を小さくする秘訣があれば、アドバイスを貰いたいしな。

 一先ず服を脱いで、下着も外すと、早速研究中のマッサージを行う。


「まだ、どれ程の効果があるかは分かっていないが、小さくなれ、小さくなれと願いながら、胸をギュッと押し込むように鷲掴みにして……とはいえ、そもそも胸が大き過ぎて手に収まらないのだがな」

「……やはり低俗。正気を失った途端に服を脱ぎ、自ら胸を揉みだすなんて」

「ん? 何か言ったか? それより……いつの間に髪の毛が長くなったんだ? さっきはショートだった気がするんだが」


 何故か正面に居たはずのメイドが居なくなり、横に別のメイドが居た。

 髪型が腰まで届く綺麗な金髪に変わっているのだが、単にメイドが移動して、頭に着けていたシニヨンキャップを外しただけ……か?


「まぁいい。それより、胸を小さくするアドバイスをくれないか? その男のように平らな胸……きっと、何か特殊な事をしているのだろう?」

「た、平ら……あ、貴女に無駄な贅肉が多過ぎるだけで、私にだってちゃんとあります! エルフはこれくらいが普通なんですっ!」

「すまない、待たせたな…… ≪キュア・コンフューズ≫」


 メイドと話をしていると、聞くだけで安心出来る、愛おしい男性の声が聞こえてきた。

 だが何が起こったのか、唐突に私の部屋から洞窟の中へと移動しており、あの性欲の代名詞とも呼ばれるオークに囲まれている。

 剣を……無いっ!? しかも鎧も身につけて居ない上に、いつの間にか胸まで露出させられている!?

 これは……もしかして、私は既にオークの慰みものにされていたという事かっ!?


「おい、モニカ。大丈夫か? とりあえず、服を……」


 オークに触られるっ!

 ご主人様にも未だ可愛がって頂いていないというのに、初めての相手がオークだなんてっ!


「――っ! む、胸にっ! 胸にかけられた……」


 私の胸に白く濁った温かい何かがかけられた。

 目の前に居るのはオークで、今の私は胸を露出させられている。

 という事は、この白いものが、メイドたちから聞いた、男性のアレなのだろう。

 最悪だ……だが、何故だ!? この白いものから仄かに香る匂いを、もっと嗅ぎたいと思ってしまっている。

 私はご主人様のものなのに……私は、ご主人様以外のアレを欲してしまう変態だったのかっ!?


「くっ……殺せっ! 慰みものにされるくらいなら、私は死を選ぶっ!」

「え? 胸を隠す為、俺の予備のシャツをかけただけなんだけど」


 目の前に居る大きなオークから、ご主人様の声が聞こえてきた。

 違うっ! 私が欲しいのは、ご主人様であって、オークではないのに!

 だが、どういう訳か、このオークに惹かれてしまう。

 周囲の小柄なオークたちには一切惹かれないのに、このオークからは、ご主人様と同じ匂いがしている気がして……


「お、おい、モニカ!? どこを触っているんだよっ!」

「も、モニカさんっ! 止め……アレックス! もしかして、さっきの魔法で混乱が完全に治ってないんじゃない!?」

「そ、そうかもな。違う魔法も使ってみよう。≪リフレッシュ≫」


 あ、あれ? オークがご主人様になった?

 白く濁った変な物は、ただの白いシャツだし、周囲の小柄なオークたちはエリー殿やリディア殿だ。

 ……もしかして、何かしらの状態異常に陥っていた!?

 ま、待って。だったら、今私が握っている物は……うん。このまま魅了状態の振りをして、続けよう。


「ご主人様ぁ。早くこの立派なモノを私に……」

「話し方がガラッと変わっているんだけど。モニカさん、正気に戻っていますよね?」

「……下劣。アレックスさん、今すぐ離れてください」


 目が笑って居ない笑顔のエリー殿に腕を掴まれ、リディア殿から凍てつくような冷たい目を向けられる。

 とりあえず、リディア殿が怖すぎるんだが。

 リディア殿も、ご主人様とこういう事をしたいはずなのに……お、怒り過ぎじゃないか!?

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