第893話 苦労するアレックス
「ごちそうさまでしたー!」
「ご、ごちそうさま」
「ん? お兄ちゃん。あんまり美味しくなかったのー?」
「いや、もちろん美味しいかったよ。ちょっと喉に何かつまっただけで、もう大丈夫だ」
実際は、テーブルの下にメイドさんがいるのと、ミオたちと分身が大変な事になっているので、食事どころではなかったというのが本音だが。
だが、トレーシーにバレる事なく、食事を終えた。
風呂にはすで幼学校で入っているし、あとは寝るだけだ。
「アレックス様。こちらにベッドをご用意しておりますので、どうぞ」
「あれ? メイドさん、いつから居たのー!?」
「ふふっ、一流のメイドは気付かれないくらいに物音と気配を消して動くものなのです」
「へぇーっ! 凄ーいっ!」
メイドさんの言葉を効いて、トレーシーが目を輝かせる。
だが、言えない。
実際はテーブルクロスの中に隠れ、俺の……げふんげふん。
「さて、トレーシー。そろそろ寝るか」
「うん……あのね、お兄ちゃん。私、幼い頃に学校へ入れられてから、ずっと独りぼっちなの。今日は一緒に寝てもいい?」
「……わかった。一緒に寝ようか」
「ありがとうっ! お兄ちゃん、大好きっ!」
くっ……ミオたちがいつにも増して頑張っているので、本来ならトレーシーと一緒に寝るなんてもっての外なのだが、そんな事を言われたら断れる訳がない。
とはいえ、常にアレが臨戦態勢なので、寝巻に着替えたら……くっ! 硬い革のズボンなら目立たなかったが、布のズボンはアレが目立ち過ぎる!
「ん? お兄ちゃん。それは何ー? ズボンに何か入ってるよー?」
「いや、違うんだ。これは気にしないでくれ」
「えー? でも、そんな所に何か入ってると、寝る時に痛いよー? 取ってあげるー! ……あれ? 取れない? この硬いの、何ー?」
トレーシーは父親とすら接していないから、本当に何か分かっていなくて……とはいえ、どうすれば良いんだ!?
……し、仕方がない。
「実はこれは、トレーシーが抱きつき易いようにと用意したものなんだ」
「どういう事ー?」
「ほら、この上に座れば抱っこし易いだろ?」
「なるほどー! ちょっとムズムズするけど、お兄ちゃんとずっとくっつけるねー!」
よし。とりあえず、トレーシーの興味をアレから逸らせた。
今、アレが暴発するのは最悪なので、気合で耐えながら、トレーシーを抱きかかえてベッドへ。
とにかく、トレーシーを眠らせよう。
トレーシーが眠るまで、とにかく耐えるんだ!
「お兄ちゃん。私、誰かと一緒に寝るのが夢だったの。このまま、お兄ちゃんにくっついていてもいいかなー?」
「あぁ、いいよ。おやすみ、トレーシー」
「うん。おやすみ、お兄ちゃん」
今日は、俺におんぶされていたといはいえ、結構移動したからな。
トレーシーも疲れていたようで、すぐに就寝する事になり、枕元にあるランプを消す。
魔族領へ来たばかりの頃のニナのように、仰向けに寝る俺の胸の上でトレーシーが小さな寝息を立て始めた。
何とか耐えきったが……もうダメだ!
そう思った時には、
「――っ! ……あ、アレックス様。あとは私にお任せください……」
さっきのメイドさんがトレーシーの後ろにいて……あの、何をしているんだ!?
「……そちらの女の子にはバレないようにしますので、ご安心ください。私の中に出せば、服もベッドも、その子も汚れませんし、良い事ずくめです……」
メイドさんが小声で囁き、再び俺の上へ。
いや、トレーシーが起きてしまう……と、危惧していたら、案の定目を覚ましてしまったようだ。
「ん……お兄ちゃん? 何か、さっきからビクンビクンって震えてない?」
「き、気のせいだよ。それより、疲れているだろうし、早く寝ようか」
「でも、ちょっと目が覚めちゃって……あっ!」
トレーシーが身体を起こそうとしたので、その小さな身体を抱きしめ、俺の胸に顔を埋めさせる。
「えへへ、お兄ちゃん」
暫く背中をトントンと叩き、トレーシーを夢の世界へ誘おうと頑張るのだが……俺のトントンと背中を叩くタイミングに合わせてメイドさんが動いている。
いや、これは……一体どうするのが正解なんだぁぁぁっ!
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