第772話 セオリツヒメ?

「~~~~っ! つ、着きました。ご主人様に突かれながら、何とか陸地へ着きました」


 いやあの、俺は何もしていないというか、モニカが離してくれなかっただけなのだが。

 とはいえ分身たちが頑張っている……というか、レヴィアやフィーネたちに捕まっているせいで、アレが大量に出てしまっているが、セオリツヒメは大丈夫だろうか。

 以前はすぐに現れて、物凄く怒られたんだが。


「あなたー! 次は私の番よー! 交代、交代!」

「ご、ご主人様。私は泳ぎながら突かれて疲れましたので、少し休憩致しますね。お水も沢山飲んでしまいましたし」

「わ、わかった。無理をしないように……ら、ラヴィニアッ!? 少し落ち着いてくれっ!」


 俺が水中で呼吸出来るスキルを持っている事を知っているからか、モニカと離れた瞬間にラヴィニアが俺を水中へ引きずり込む。

 いやこれ、水中呼吸スキルがなかったら、恐怖でしかないんだが。

 だが、分身たちの……うん。既に臨戦態勢だから、そのままラヴィニアが抱きついてきて……満足すると次の人魚族の女性と交代する。


「あなた。今日は分身を出してくださらないの?」

「いや、前に分身を出してセオリツヒメに怒られただろ?」

「あ……た、確かに。あの時は、とても怖かったのです」

「あれ? そんなに激しく怒られた時があったっけ?」


 俺の記憶では、水に流すと言って、怒ってはいたものの、割とすんなり許してくれて、注意に留まった感じだったのだが。

 ……あ、なるほど。前にモニカの転移スキルで来て、分身だけ出して戻った時の話か。

 俺が居ないところで、ラヴィニアたちがセオリツヒメから怒られていたようだ。


「……って、だったら尚更まずく無いか!? さっきから何度も水中で……」

「ですが、今の所は何の異変もありませんよ? 川の神様は凄い力をお持ちなので、何かあればすぐにわかるのですが」


 人魚族の女性に抱きつかれながら、ラヴィニアと話して……あれ? 確かに来ないな。

 怒られても困るんだが、来てくれないのはもっと困るんだが。

 確か、これまでにセオリツヒメが来た時は……あれか! 量か!

 分身も出して、川の水面が白くなるくらいに……げふんげふん。

 ひとまず、一気に分身を出し過ぎても怒られてしまうし、アマゾネスの村でレヴィアが不機嫌になってしまう。

 という訳で、俺の身体は人魚族の女性に任せて、分身の一体に意識を切り替える。


 ……ソフィの相手をしている分身か。ソフィは魔力補給が必要だから、他の者にしよう。

 再び切り替えると……イネスの相手をしている分身だった。

 イネスは俺の腰のマッサージもしてくれているから、ある意味で今回の作戦でもっとも重要と言える。

 という訳で、他の者へ……と繰り返し、結局レイの相手をしている分身を消す事に。


「レイ、すまない。ちょっと本気を出す」

「えっ!? いきなりどないしたん!? ……あ! もしかして、アレックスはんの本体の意識が……おほぉぉぉっ!」


 本気を出してレイを満足させると、空いている分身を探しているアマゾネスの女性に見つかったが、抱きつかれる前にこの分身だけを消す。

 そして、俺の本体に意識を戻し、分身を一体こちらへ追加だ。


「アレックス様の分身様よぉぉぉっ!」


 分身を一体追加した途端に、人魚族の女性が群がり……あっという間に待ち行列が出来てしまった。

 だが、これでアレの量が倍になる訳だし、きっとセオリツヒメが現れてくれるはず!


「……って、どうしてセオリツヒメは来てくれないんだ!?」


 分身を一体追加しても現れないので、二体目、三体目……と増やしていき、九体にまで増やした。

 一番最初から考えると十倍なのだが、まだダメなのか。

 こうなったら、イネスと一緒に居る分身を残して全員……いや、やり過ぎて怒らせてしまっては意味がない。

 ひとまず、次は分身を十五体にしてみるか。


「私っ! 次は私! まだ私、五回しか子種をいただいていないのっ!」

「待って! 私はまだ四回目なんだから、譲ってよぉ!」

「ご主人様っ! そろそろ私も……私にもお願い致しますっ!」


 分身を増やしたら増やしたで、人魚族の女性たちが大変な事になり、それをモニカが羨ましそうに眺めているのだが、未だにセオリツヒメは現れない。

 一体、どうしてなんだっ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る