第507話 アレックスの遠距離攻撃
目の前の河は、レヴィアが海竜の姿になって舟を引いて登れるだけあって、かなり幅がある。
ラヴィニアの魔法が届かないというのも仕方ないだろう。
唯一空を食べるのはユーリだが、危ない事はさせたくないし、石の壁で橋を作る……というのも、リディアならともかく俺には無理だ。
「……まてよ。石の壁か」
「パパー。何か思い付いたのー?」
「あぁ、ちょっとね」
ワクワクした表情で見上げてくるニースの頭を撫でながら、実行前に確認だけしておく事に。
「フェリーチェ。向こうは投石機を使ってくるが、今のところは届かない……という話だったが、弓矢などでも同じだろうか?」
「はい。幸い、そこまでの腕は無いようです」
「分かった……が、念のため≪石の壁≫」
石の壁を生み出すと、ニースたちを守る壁とし、またそれとは別に小さな箱を作っておく。
そこへラヴィニアが水魔法で水を注ぎ、ひとまずラヴィニアが休める場所も出来た。
「さて、準備が整ったところで、やるか……≪石の壁≫」
「あの、アレックスさん。貴方が不思議な魔法を使える事はわかったのですが、いきなり全然違う場所に石の壁を?」
「あぁ、こうするからだよ……よっと」
「――はっ!? その分厚い石の壁を素手で割っただとっ!?」
驚くフェリーチェはさておき、まずはこれくらいから行ってみるか。
砕けた石の壁の中から、拳大程の大きさの石を手に取る。
悪いが、今回はユーリが攻撃されているからな。
俺は怒って居るんだ。手加減するつもりはない!
「行くぞ……はぁっ!」
「……って、投石っ!? 弓矢や投石機で届かないのに、投石が届く訳……うわぁっ!」
「よし。思った通りだ」
狙ったのは、向こう岸の少し下……俺とニースで船から地上を目掛けて掘り進めていた場所だ。
俺たちが道を作って穴を掘っていた場所へ、投げた石が直撃すると、その少し上の地面が崩れ、崖の下……大きな河へ崩落していく。
「あ、あの……今のはどういう魔法ですか?」
「ん? 魔法ではなく投石だが?」
「投石であんな事になる訳ないですよね!? ファイアーボールの最上位の魔法でも、あんな事にはならないでしょ!」
「いや、あの場所は偶然俺たちが、地上を目指して掘っていた場所なんだ。サクサク掘れたから、地盤が脆いんだろうな……と思っていてさ」
「いくら地盤が脆くても、投石で爆発なんてしませんよっ!」
フェリーチェが何故か現実を認めてくれない。
遠目ではあるが、それなりに巣を破壊出来たんだけどな。
「あ……わ、わかりました! 魔法ではなく、何かのスキルを使ったのですね? でないと、あんな威力も出ませんし、この距離で狙った場所に当たる訳もないですし」
「……あ、そうだな。確かバーサークというスキルを持って、怒ると攻撃力が高くなるんだ。あと、狙撃スキルも持っているからな。射撃系の命中率が上がるんだ」
「えっと、あまり怒っているようには見えないのですが……あと、射撃? 投石なのに? まぁいいですけど」
「いや、めちゃくちゃ怒っているぞ。ただ、他の者にぶつけるのは違うだろ? だから、それをゴブリンたちに向けているだけさ」
さて次は……これにしてみようか。
「あ、あの……私の頭くらいの大きさの岩なんですが、それも先程のように投げるのですか!?」
「まさか。流石にこれは、さっきみたいには投げられないよ」
「で、ですよね……って、普通に投げたーっ! しかも余裕で届いてるっ! さっき投げられないって言った所じゃないですかっ!」
「いや、だから先程の小さな石のように、直線的には投げられないと言ったんだが?」
岩が放物線を描いて、ゴブリンの巣に直撃し……よし。また崖が崩れたな。
だが、最初の投石程の効果はないし、何か改良出来ないだろうか。
そう考えていると、ユーリが遠慮がちに口を開く。
「あ……パパー。あ、あのね。ユーリ、おしっこ……」
「え!? わかった。じゃあ、どこかで……あ、そうだ! この石や岩にかけてくれないか?」
「いいよー! パパー、おてつだいしてー!」
「あ……仕方ないな。俺から言った訳だしな。皆、少し失礼」
小さなユーリの身体を支えてあげると、チョロチョロと聖水が出て来るので、それを先程壊した石の壁にかけていく。
「ふー。スッキリ。パパー、ありがとー!」
「いや、俺の方こそ急にすまないな。……さて、手頃なのはこれか」
「あ、あの……アレックスさん。幼女のおしっこがかかった岩を拾って……あ、変態さんだったんですね!?」
誰が変態だ! 後でちゃんと手を洗うよっ!
というか、普段はここまでしないけど、今回は本気で怒っているからな。
というのも、攻撃力を向上させるために、これまでに俺が貰って来たスキルの事を考え、クララから聖属性攻撃の威力向上というスキルを貰っている事を思い出したんだ。
聖属性付与といえば、聖水。聖水といえば、ユーリの……げふんげふん。
先程と同じくらいの大きさだけど、ユーリの聖水付与付きの岩を手にすると、先程と同じ様に放物線を描くように投げ……轟音が鳴り響く。
「あ……思っていた以上に威力が出過ぎたな」
これまでとは比べ物にならないくらいに崖が崩れ……ゴブリンの巣が全て河へ落ちて行った。
「えーっと、フェリーチェ。こんな感じでどうだろうか?」
「……ア、ハイ。スゴイデス」
せっかくゴブリンたちを全滅させたのだが、何故かフェリーチェに距離を取られてしまった。
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