第506話 ムササビ耳族の困り事

 少しすると、先程の女性が戻って来た。

 とりあえず、大勢連れて攻めて来る……というのでは無いようだ。


「待たせてしまい、すまない。私の叔父なのだが、この村の村長が幾つかリス耳族が住んで居ると思われる森を知っているそうで、説明してくれるそうだ。この木の上なのだが……登れるだろうか?」

「俺は木登りスキルがあるから大丈夫だが、後はユーリくらいか?」

「そうね。私はどう頑張っても無理だから、ここで待っているわね」


 とりあえず、居残り組となったラヴィニア、プルム、ニースにパラディンの防御スキルをしようし、ダメージを肩代わり出来るようにして木の上へ。

 どうやら、木々の葉の中に隠れるようにして家があるようで、これではユーリが木の上から見ても気付けないだろう。

 案内された家に入ると、年配のムササビ耳族の男性に出迎えれた。


「こちらです。叔父さん、先程話したアレックスさんを連れて来ました」

「アレックスさん。フェリーチャから話は聞いております。何でも、本気で挑んだフェリーチャの攻撃を全て防ぎ、一度も反撃する事無く負かしたとか。いやー、凄いですね」

「はぁ……それよりも、教えて貰いたい事があるのですが」


 ここへ案内してくれた女性――フェリーチャというらしいが――と同じ話にはなるが、リス耳族の村を捜して居る事を話す。


「幾つか知っているのですが、一つお願いがあるのです」

「……フェリーチャの妹が発情したという話なら、本当に知らないぞ」

「いえ、そのお話ではありません。あちらの対岸についてです」

「対岸というと、弓矢を使う者たちだな?」

「えぇ。御存知でしたか」

「あぁ。色々あってな」


 ユーリ本人が居るので口には出さないが、矢で射られたからな。


「実は、対岸にはゴブリンの村があるのです」

「ゴブリンの村!? 巣ではなくてか?」

「はい、村です。というのも、元々は人間族が住んで居る村だったのですが、十数年前にゴブリンの集団が村を乗っ取り、そこに大勢のゴブリンが住んで居るという状態です」


 なるほど。魔族領の地下、シェイリーの社の近くにも、オークが廃村に住んでいたな。


「被害に遭った人間族には悪いですが、正直に言わせていただくと、大きな河で橋も架けられないため、対岸の火事だと高を括っていたのですが……最近、ゴブリンたちが急に知恵をつけたようで、投石機を開発したのです」

「投石機だって!?」

「はい。幸い、まだこちらまで届きはしないのですが、日に日に距離が伸びており、その内こちらへ岩が届いてしまうのではないかと心配しております」

「なるほど」

「我らムササビ耳族は魔法を使える者が殆ど居りません。水魔法が得意な人魚族の方が居られると聞きましたので、どうかゴブリン族を倒していただけないでしょうか」


 対岸に居るゴブリンたちを魔法で倒して欲しいという事か。

 ユーリが攻撃された事もあり、相手がゴブリンという事であれば俺も潰したいという気持ちはあるのだが、突然投石機を作ったという辺りが気になる。

 先程のオークも、投石機を作って攻撃してきたのだが、あれはオークキングが誕生しており、変に賢くなっていたんだよな。

 今回のゴブリンも、ゴブリンキングが誕生しているのではないだろうか。


「わかった。協力はするが、何とか向こう岸へ渡る方法はないのか? 出来れば、直接行って斬ってしまいたいのだが」

「同じ事を考えた者がこの村にも居りまして、若い勇敢な男が向こう側へ向かって滑空しようとしたのですが、矢で狙い撃ちにされてしまいまして」

「そうか。では、まずは人魚族の者に話を聞いてみるとしよう」

「すみませんが、よろしくお願い致します」


 ムササビ耳族の村で村長と話した後、木を降りてラヴィニアたちの所へ。

 そのままラヴィニアを抱きかかえ、森を横に抜けて崖の方へ行ってみた。

 なるほど。エリーのような攻撃魔法であればともかく、ラヴィニアの精霊魔法では難しいかもしれないな。


「ラヴィニア。ここから、魔法であのゴブリンの巣を攻撃したいのだが、届くだろうか」

「……流石に遠すぎるわ。私の魔法では無理ね」


 残念ながら、予想通りの答えが返ってきてしまった。

 さて、どうしたものか。

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