第508話 ささやかな祝勝会

「……という訳で、アレックス様が投石でゴブリンの村を壊滅させました」

「……にわかには信じられんが、フェリーチェがその目で見ておるのだな。まぁ現に対岸が崩壊しているし、事実なのだろう」

「えぇ。ありがたいですが、恐ろしい……絶対、敵に回してはダメですよ?」


 フェリーチェとユーリと共に木の上の村へ移動し、村長へ成果を話しに来たのだが、怯えた表情を浮かべられてしまった。

 うーん。俺としては、良かれと思って行ったのだが、これは悲しいな。


「むー! パパはこわくなんて、ないもん! すっごくやさしいもん!」

「す、すまない。そうですね。我々の村の為に、アレックス様がゴブリンを倒して下さったのに。ただ、アレックス様が凄すぎて、ついポロっと」


 そう言ってフェリーチェが頭を下げるが、それはつまり、本音を話したという事なのだが……泣いても良いだろうか。


「失礼します。簡単な物で申し訳ありませんが、お食事を……」

「ん? どうしたんだ?」

「あ、あれ? どうしたんだろ? この人を見ていると、身体が熱く……」


 村長の娘だというムササビ耳族の女性が、料理を運んで来てくれたのだが、トレイをテーブルに置き、モジモジし始める。

 マズい。これは、一つ前の村と同じ事になってしまう!


「フェリーチェ。そちらの女性を部屋の外に!」

「え? は、はい!」

「この部屋に入らないように伝えておいてくれ」


 フェリーチェが村長の娘を外に連れ出し、事なきを得た。


「あの、今のは一体……?」

「いや、どういう訳か、俺の側に居ると魅了状態に陥ってしまう者が居るようで」

「えっ!? む、娘は……娘は大丈夫なのでしょうか!?」

「俺から離れれば大丈夫らしいんだ。だから、この部屋に入らないようにすれば良いかと」


 村長さんが真っ青になっているが、俺としては他のリス耳族の村の場所を教えて欲しいだけで、それ以外の目的はないんだ。

 慌てて村長さんに説明していると、フェリーチェが戻って来たのだが、


「お客様。先程は、何やら姉が粗相をしでかしたようで、申し訳ございません。ここからは姉に代わり、私が給仕をさせていただきま……んっ!? あ、あれ? どうして、突然漏らしたり……」

「フェリーチェ。そちらの女の子にも、部屋から出て行ってもらって」

「ま、待ってください。何か……何か変なんですっ! 身体が熱くって、こんなの初めてで……」


 先程の女性より幼い少女を連れて来てしまったので、即戻ってもらった。

 いや、本当にこの自動発動の魅了スキルを抑える事は出来ないのだろうか。


「アレックス様。何やら、私の娘二人が失礼致しました」

「あ、いえ。それより、せっかく食事を用意していただいたので、いただきます。食べ物を無駄にするのは、絶対にダメですので」

「そ、そうですね。ではフェリーチェも一緒に……フェリーチェ。戻ってこれそうかい?」


 村長さんの呼びかけでフェリーチェが戻って来て……うん。今度は一人で戻って来た。

 ひとまず、食事をいただきながら、リス耳族の村の場所を教えて貰おうと思ったのだが、


「失礼します。お飲み物を――っ!?」

「お、おまえ!? ど、どうしたんだ!? 突然座り込んだりして……立てるか?」

「は、はい。失礼致しました。お、お飲み物です……」

「えっ!? おまえ……どうしてお客様の前でいきなり失禁を!? そ、そんな事、今まで一度も無かったのに! す、すみません。今すぐ片付けさせますので」

「ご、ごめんなさい、あなた。でも、これあ失禁ではなくて……んぁっ! め、目が合っただけで……しゅごい!」


 えーっと、村長さんの奥さんらしき若い女性が現れたのだが……こ、これは俺のせいではないと思いたい。

 村長さんと奥さんが大慌てで掃除し、ユーリがキョトンとしながら、フェリーチェが若干引いている。

 まぁ大の大人がいきなり失禁したら、引くよな。

 ……あれ? フェリーチェの冷たい目が一瞬俺に……えっ!? 俺が引かれているのか!? いやいや、本当に何もしていないのだが。


「お、お見苦しいところばかり、申し訳ございません」

「いや、気にしないでくれ」

「そう言っていただけると助かります。あと、一つ分かった事があります。……フェリーチェ。どうやら君はアレックス様の前でも、いつも通りで居られるようだ。なので、アレックス様と行動を共にし、リス耳族の村へご案内するのだ」


 村長さんの言葉を聞いたフェリーチェが、目の前にある皿から肉を一切れ口へ運び……


「えぇぇぇっ!? お、叔父さんっ!? 何を言っているのーっ!」


 話を聞いて居なかったのか、食べ物に夢中だったのか。

 かなり遅れて叫びだした。どうやらフェリーチェは、故郷から離れたくないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る