第509話 プルムのもう一つの姿
「ちょ、ちょっと叔父さん!?」
「いや、どういう訳かはわからないが、アレックス様の近くに女性が寄ると、体調を崩してしまうらしいが、フェリーチェは何とも無さそうだからな」
「それはそうだけど……私が本気で挑んで手も足も出なかったのよ!? もしも襲われたら……」
「いや、襲うならもうとっくに襲われているだろう。そもそも、娘さんが居る前でそんな事はしないだろうし、大丈夫だろう」
どうやら他のリス耳族の村へフェリーチェが案内してくれるようだが、物凄く嫌そうだな。
「あー、無理強いは良くないと思うのだが……」
「ち、違うんです! 元々村を出て、世界を巡ってみたいと思っていたので、むしろ好都合なんです。ですが、アレックスさんが強過ぎて、夜に襲われたらどうしよう……なんて」
「いや、ユーリ……娘も居るし、下には妻もいる。俺からそんな事はしないと、パラディンの名に誓おう」
「そ、そうまで言うなら……ち、ちなみに、ユーリちゃん。普段はお父さんと一緒に眠っているのかな?」
フェリーチェが恐る恐るといった感じで聞くと、
「そーだよー! いつもいっしょだよー! ユーリとニースとパパのさんにんで、ならんでねてるのー!」
「そうなんだね。じゃあ大丈夫かな」
「パパはへんなことなんて、しないもん! ……パパは」
ユーリが俺に抱きついてくる。
昨日の夜はいつの間にか大変な事になっていたし、気になる方事が無くはないけど、フェリーチェは魅了耐性があるみたいだし、大丈夫だろう。
「じゃあ、叔父さん。アレックスさんを案内してくる」
「あぁ、頼んだよ」
一先ず、フェリーチェと行動を共にする事になり、少し料理を包んでもらって、木の下へ。
ラヴィニアたちも昼食を済ませると、出発する事に。
だが暫くは順調だったのだが、ラヴィニアが泳いでいた小川が小さな池に辿り着き、そこで途絶えてしまった。
「あら……ここからは、あなたに抱き締めてもらいながら進むしかないわね」
「抱きしめ……は置いといて、抱きかかえていかないといけないな」
「えーっと、という事はアレックス様の腕が塞がってしまうという事? 魔物が出たら、私が戦うしかないのね」
ラヴィニアを抱きかかえようとしたところで、フェリーチェが困惑した様子で周囲を見渡す。
……あー、なるほど。周囲に高い木がないから、あの空中から滑空する戦い方が出来ず、不安なのか。
俺の腕が塞がっていると、ラヴィニアに水魔法で攻撃してもらうくらいしか戦う術がないな。
「んー、お兄さん。困ってる感じ? プルムが何とか出来るかもしれないよー?」
「そうなのか?」
「うん。要は、この人魚のお姉さんが乾かなければ良いんだよね?」
「まぁそうだな」
「じゃあー、これでどう?」
そう言って、プルムが女性の姿から形を変える。
「えーっと……これは、巨大なスライム?」
「体積は一緒なんだけど、中が空洞だから大きく見えているだけだよー。で、人魚のお姉さんは水魔法が使えるでしょ? プルムの中に入って、水を出せば良いんだよー」
どうやら大きなスライムというより、大きなコップだろうか。
コップの持ち手に当たる箇所に、プルムの顔があるし。
……見た目はスライムだが、まぁヴァレーリエやレヴィアだってドラゴンの姿になるからな。
同じ様なものだろう。
空洞スライムの形態になったプルムの背中にラヴィニアが乗ると、水魔法で早速水を出す。
上部は開いているから、ラヴィニアが窒息するような事も無いし、これでプルムが普通に動けるのであれば、何の問題もないのだが……
「凄いな。それ、どうやって歩いているんだ?」
「どうやって……って言われても、スライムモードの時は普通に歩いているだけだから、どう説明すれば良いか分からないよー」
「あなたー。こっちは殆ど揺れないし、凄く快適よー!」
プルムは人間の姿をしていた時は普通に歩いていたが、今は一切足を動かす事無く……というか、そもそも足が無いのだが、飛び跳ねるわけでもなく、ツーっと動いている。
とりあえずラヴィニアが問題なさそうなので、このまま進む事にするか。
まぁ流石に歩く速度は人の姿だった時より遅く、ニースが歩くくらいの速度だろうか。
「ん……アレックス様。何やらこっちに向かって……あれは、C級のワイルド・ボアですね。あれなら私でも何とか……」
「いや、待ってくれ。あれを今日の夕食にしよう」
「え? ……うわぁ。全力で突進してきたワイルド・ボアを一撃ですか」
「よし。食料も確保できたし、良さそうな場所があったら、野営にしようか」
倒した魔物の肉を適当に切り分け、野営地を探す事にした。
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