第743話 猫鼬耳族の女性

 西大陸は、南西に伸びている大陸だったのか。

 という事は、あのバンシーが言った、魔族領が下だという話は、地下ではなく南という可能性も、まだ捨てきれないという事なのだろうか。


「ちなみに、第二魔族領が何処にあるかは知っているだろうか」

「魔族領? さぁ……あるっていう噂は聞いた事があるけれど、実在するかどうかは知らないわね」

「そうか。では、先程話したドワーフの国の場所を教えてくれないだろうか」

「構わないけど……私が知っているのは、沢山ある中の一つに過ぎないわよ? 貴方たちが行きたい国とは違うかもしれないけど」

「えっ!? ドワーフの国って沢山あるのか!?」


 思わず驚きの声を上げると、女性から「当然でしょ?」と言わんばかりの視線を向けられてしまった。

 いやでも、ノーラの時もリス耳族の村がいろんな場所にあったし、そういうものか。

 実際、人間なんてあちこちに居るし。


「わかった。ひとまず、そこで構わない」

「そう。じゃあ、場所なんだけど……」


 そう言って、教えてもらったのは、ここからひたすら真っすぐ西へ行くと、低い山があるらしい。

 一見すると、なだらかな登り坂にしか見えないらしいが、実はその地下に沢山の鉱物が眠っていて、その地下にドワーフの国があるそうだ。


「ありがとう。ちなみに、どれくらいの距離を行けば良いのだろうか」

「貴方たちは、ここから真っすぐ北の海まで行ったのよね?

「あぁ。縦断した」

「それと同じくらいの距離を西に進めば見えてくるとおもうわ」


 うぐ……あの距離と同じだけ移動するのか。

 馬車を入手しているので、少しは早く移動出来るかと思うが、それでも辛いな。


「わかった……ありがとう」

「ところで、貴方たちはドワーフの国へ何しに行くの? まさかとは思うけど、宝石を奪いに行ったりする訳ではないわよね?」

「まさか。仲間に奴隷にされていたドワーフの少女が居るから、その少女を故郷に帰してあげようと思ってさ」

「え……そ、それは本当なの?」

「あぁ。さっき言った街の南で待機してもらっているが」

「……ちょ、ちょっと会わせてもらっても良い?」

「構わないぞ」


 という訳で、街の南側に出る、かなり急な登り口まで案内してもらい、猫鼬耳族の女性と共に地上へ。

 門のかなり近くらしく、レミのクリームを購入した女性と遭遇する事無く馬車へ戻って来た。


「アレックスよ、遅いのじゃ。まぁ新たな女性を連れてきた事から、街の中で何があったのかは想像がつくがの」

「いや、違うんだ。この人は、街の中で地下に落ちてしまった俺たちを、ここまで案内してくれたんだ」

「ふむ。それは失礼したのじゃ。てっきりアレックスのアレの虜になった、新たな妻かと思ったのじゃ」


 ミオが無茶苦茶な事を言ったけど、猫鼬耳族の女性はそれをスルーして、馬車の中を覗き込む。


「ニナ。ちょっと来てくれ」

「ん? お兄さん、どうしたのー?」

「いや、こちらの女性がニナと話したいそうだ」


 ニナを呼び、馬車から出てきてもらうと、


「ほ、本当にドワーフの女性だ! あ、あの、念の為の確認だけど、貴方はこの男性から酷い事をされていない?」

「え? 酷い事って?」

「その、無理矢理働かされるとか、宝石を探せとかって無茶ぶりをされたりとか」

「ううん。お兄さんはニナと家族みたいな関係だし、そんな事は言わないよー?」

「なるほど」


 猫鼬耳族の女性がニナと少し話した後、俺に向き直る。


「ごめんなさいね。試すような事をして」

「え? 何の話だ?」

「いえ。さっき話した通りで、貴方がドワーフの国へ鉱物を奪いに行くのかと思っていたの」

「あぁ、そういう事か。まぁ見ず知らずの相手だからな。いきなり信用しろというのが無茶だよな」


 そう言うと、深々と頭を下げていた女性が顔を上げ、


「実はね。さっきは言わなかったけど、もっと近い場所にドワーフの国があるの」

「え? そうなのか?」

「えぇ。それ程遠くないし、案内するわ」

「それは助かる。俺はアレックスだ。よろしく頼む」

「私はガブリエラよ。よろしく」


 ガブリエラがドワーフの国へ案内してくれる事になった。

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