第742話 残念な事実
「レミ。アレを使った薬を売るのは禁止にしようか」
「えぇっ!? いや、ちゃうねん! ちゃんと中和したはずやってん! ただ、おとんの目の前で、あんなに大量に塗るとは思わへんやん?」
「いや、俺の前だろうと何だろうと、一度にあんなに塗ろうとするのはおかしくないか?」
「……多分、おとんの前だけやで。おとんが近くにおったから、皮膚から吸収されたアレで気持ち良くなってしまったんとちゃうかなー?」
レミが首を傾げるが、もっと安全性を高めてから販売するようにしてもらいたい。
まぁ俺が近くに居なければ何の問題もないらしいが。
「さて……それより、ここからどうやって脱出しようか」
「えっ? おとんなら、こんな穴、ひとっ飛びやないん?」
「そういうのが出来るのは、カスミやサクラだろう。俺は体力はあっても敏捷性は無いからな」
街の女性たちから逃げる為、路地裏へ入ったまでは良かったのだが、そこそこ深い穴に落ちてしまった。
幸い、レミを庇う事は出来たが、どうやって脱出しようか。
「というか、そもそもどうして街中にこんな穴があるんやろ?」
「別の砂漠の街でも、暑さ対策で地下に街が展開されている所はあったな。もしかしたら、この穴は地下の空気穴なのかもしれないな」
「それならそれで、誰かが落ちたりせーへんように、カバーとかを付けて欲しいわ」
上に目をやると、天井に小さな穴が空いており、それなりの高さがある。
あの小さな穴の中では壁に剣を刺して減速出来たが、途中からは普通に落下し……石の壁で階段を作れれば良いのだが、俺が作るとガタガタで危ないんだよな。
あと、俺一人なら分身に投げてもらうという手もあるが、狙う穴も小さいし、レミが居るのでやめておこう。
「とりあえず、ちょっと歩いてみるか」
「ん、わかった」
神聖魔法で剣に明かりを灯すと、レミと手を繋いで広い空間を歩いて行く。
方角はわからないので、とりあえず勘だ。
暫く歩いていると……何かが近付いて来る?
「ん? ……こんなところに人間が居るの?」
「女性っ!? あ、いや、例のクリームを買った者では無さそうだな」
「クリーム? 何の話?」
レミと共に歩いていると、小柄な獣人の女性が現れた。
見た目は十代半ばだが、話し方と落ち着きようからして、小柄な種族といった感じなのだろう。
「俺は旅の者なのだが、路地に入ったところで穴に落ちてしまい、ここへ着いたんだ」
「路地……って、あの空気穴から落ちたの!? よく無事だったわね」
「ははは。まぁ身体は頑丈だからな」
「そ、そう。あの高さから無事なのは、頑丈ってレベルじゃない気もするけど、そういう事なら地上に出たいのよね?」
「あぁ。だが、出来れば街の南側に出られると助かる。そこに仲間を待たせているんだ」
「なるほど。じゃあ、こっちね。ついて来て」
そう言って、獣人の女性が歩き出したので、レミと共について行く。
ちなみに、勘で歩いていた方向は真逆だった。
だが、この女性に出会えたので良しとしよう。
「ここは砂漠の街の地下だと思うのだが、家などが無いな」
「んー、ここはまだ地下の穴を作っている途中なのよ。だから、空気穴もしっかりカバー出来ていなかったのかも。後で責任者に言っておくわ」
「なるほど。だが、その作成途中の穴なのに、道が分かるのか?」
「えぇ。この辺りは私たち猫鼬耳族が掘っているから」
全く聞いた事の無い獣人の種族名だが、マングースという動物の特性持っており、その中でもスリカータという種族なのだとか。
穴を掘るのが得意で、砂漠の街や村の地下は猫鼬耳族が作る事が多いそうだ。
「あ……穴を掘るのが得意だという事は、ドワーフの国が何処にあるかを知っていたりするのだろうか」
「知っているけど……物凄く遠いわよ?」
「いや、それなら大丈夫だ。一度、この西大陸を北から南まで縦断しているからな」
「……えっと、念の為に確認するけど、その縦断の南端って、この街の事を言っているのかしら?」
「ここから真っすぐ南に行った海までは行ったぞ?」
「……残念だけど、西大陸は南西に延びているのよ。確かにこの街のすぐ近くは海だけど、西大陸の南端とは到底言えないわよ?」
「えぇっ!? そ、そうなのか!?」
「うん。ここの街から、海沿いにずっと西に行ってみて。途中で、海岸線が大きく南に曲がるから」
西大陸を歩き通した……と思っていたのだが、どうやら大きな勘違いだったようだ。
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