第744話 ドワーフの国の入口

「……ここよ」

「こんなところにドワーフの国があるのか?」

「えぇ。間違いないわ」


 ガブリエラに案内され、街から北西に向けて馬車を走らせる……というか運んで行くと、砂漠を抜けて何もない荒れ地で止まるように言われた。

 ちなみに、ここへ付くまでにガブリエラから、「これは馬車なのよね?」と何故か三回も確認されたが、やはり砂漠に馬車が存在しないから珍しいのだろう。


「そこに四つ並んだ岩があるでしょ? そこがドワーフの国への入口なの」

「そうなのか。じゃあ、ひとまず馬車をしまうか」


 グレイスに頼んで馬車を空間魔法に収納してもらうと、正方形の角を作るように配置された岩の中心を、ガブリエラが持って来ていたシャベルで真下に掘り始めた。


「ニナも手伝うよー!」

「俺も手伝おう。穴掘りスキル持っているから、ニナ程ではないが、穴を掘る事は出来る」

「二人共、ありがとう。ただ、ここは元々出入口を隠しているだけだから、少し掘ればすぐに横穴に繋がるの。だから……ほら。もう見えたわ」


 ガブリエラが指さす場所に目を向けると、確かに真っ暗な闇の中に、第四魔族領の地下でニナがドワーフのスキルで生み出していたような、光苔の淡い光が見える。


「みんな、ついて来て」


 そう言って、ガブリエラが穴の中に飛び降りたので、俺はレミとニナを抱きかかえて飛び降りる。

 ……が、抱きかかえるまでもなく、浅い穴だったな。

 俺は普通に立ったら、穴から顔が出てしまうんだが。


「あー、ドワーフ族は背が低いからねー」

「お兄さん、大丈夫ー?」

「これは……ニナが魔族領の地下に向かうトンネルを初めて掘った時の事を思い出すな」


 あの時も、ニナと俺の身長差があるせいで、ずっと中腰で移動する必要があったんだよな。

 後で、ニナがトンネルに高さをつけてくれたおかげで、それ以降は普通に歩けるようになったけど。

 とはいえ、ここは魔族領ではなくドワーフの国なので、勝手に穴を広げる訳にもいかない。

 だが、ずっと中腰で歩くのは辛いな。


「≪変化≫」

「えっ!? 子供の姿になったけど、アレックスさんは人間族……よね?」

「そうだが? ……あぁ、これは姿を変えるスキルなんだ。これなら腰を痛めずに、普通に歩けるからな」


 これで俺はドワーフの国を普通に歩けるが、ドワーフのニナとガブリエラに、ミオとレミは小柄なので問題なしとして、シアーシャとグレイスがギリギリ歩ける程度か。

 問題は、モニカとザシャか。

 女性として特別背が高い訳でもないのだが、いざ穴の中に降りて来ると、中腰でないと先に進めそうにない。


「ザシャとモニカは外で待っておくか?」

「私はこの洞窟なら問題ないよ。寝転んだ態勢で浮遊魔法を使えば良いだけだから」


 そう言って、実際にやってみせてくれたのだが、ふよふよと横に飛んで移動し……うん。ザシャは問題なさそうだな。


「わ、私も行きます! ご主人様のお傍を離れるなど耐えられませんから」

「モニカはずっと中腰になりそうだが、大丈夫なのか?」

「ふっ……ご主人様。私は四つん這いでリザードマンの村を一周したのです。ですので、四つん這いで洞窟を移動するくらい、訳がありません。宜しければ、ご主人様は子供姿ですし、私の背に乗ってお馬さんごっこをしながら移動しても構いませんよ」

「……すまん。四つん這いでリザードマンの村を……って、モニカは一体何をしているんだ?」

「えぇっ!? お忘れですかっ!? 初めてのお散歩プレイで、私が犬となり、全裸で四つん這いになって……」


 モニカは本気で何を言っているのだろうか。

 リザードマンの村で夜にモニカと散歩した事は覚えている。

 だが、四つん這いとは何の事だ? ……待てよ。言われてみれば、あの時のモニカは全裸だったが……一人で犬のフリをしていたのか!?

 ……若干、モニカが心配になってきたんだが。


「ご、ご主人様!? その、本気で心配する目を向けるのは止めていただけると……」

「人間族って、変な性癖があるんですね」

「ガブリエラ、待ってくれ。ちょっとモニカが特殊なだけで、人間全体をそんな風に思わないでもらえないだろうか」


 モニカの言葉で、ガブリエラに若干引かれながら洞窟を進む事になってしまった。

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