挿話33 主が消え、探しに行くシノビのサクラ

「メイリン様。昼食でござる……っ!?」


 いつものように、長い階段を登り、塔の最上階……拙者の主の部屋に食事を運んできたのだが、その肝心の主の姿が無い!


「ど、どういう事なのっ!? サクラ……私は上役に報告して来ます。貴方はここで待機してなさい」

「御意」


 拙者のパートナー――もとい監視役が慌てて塔を降りて行く。

 この塔では、常に二人一組で行動させられるから、普段なら一人になれた今は、部屋に細工をしてメイリン様を助ける為のチャンス! と考えるところなのだが。


「しかし、メイリン様が居なくなったのは、拙者以外にもメイリン様をお助けしようとしている者が居たという事か?」


 メイリン様は黒髪の王族の最後の一人。

 拙者のように髪の色を変えて生き延び、密かに仕える者が居てもおかしくは無い。

 おかしくは無いが……何故、このタイミングで脱出させたのだ!?

 逃すにしても、普通は夜中であろう。

 それとも、メイリン様のスキル発動させる為に必要な子種を手に入れられたから、決行したのか?

 しかし、男子禁制のこの城で、子種を手に入れる事は困難を極める。

 拙者でさえ難航しているというのに、どうやったのだ?


「何かしらのスキル……か」


 この部屋の出入口は一つ……拙者たちが登って来た長い階段しかないし、その先は衛兵たちが大量に居る。

 メイリン様を連れて、そこを明るい内に突破するのは困難だ。

 あとは、鉄格子が嵌められた小さな窓が一つ。

 外したようには思えないし、ここから出たとは考え難いが、飛行スキルを持つ者なのか?

 そんな事を考えて居ると、


「なっ!? まさか本当に……なんて事なの!」


 気付けば、いつの間にか拙者の監視役が、上役を連れて戻って来ていた。


「いつものように、私とサクラが食事を持って来た時には、この状態でした。もちろん、扉に鍵も掛かっていました」

「マズいわね。もしも、あの娘が外に出ていて、スキルを使ったら……国が滅びるわよ」

「国が滅びるとは……あ、あの娘は、そんなに凄いスキルを持っているのですか?」

「えぇ。何でも、人間そっくりの魔法生物の兵士を無限に生み出すスキルらしいわ」

「魔法生物!? しかも無限の兵!?」

「しかも、その魔法生物に教えた知識や技能は、新しく生み出された魔法生物にも共有されるらしいの。つまり、一体の魔法生物に戦い方を教えれば、以降は訓練の必要無く、戦い方を知った兵士が生み出されるのよ」


 惜しいな。

 厳密には、同じ男性の子種から作られた人形は、知識などが共有される……が正解だ。

 なので、同じ人物から何度も子種を貰えば、教育や訓練を必要とせず、即戦力だからな。

 とはいえ、メイリン様を幽閉していた奴らに教える義理は無いが。

 ただ……人形の年齢は子種の提供者の半分になるから、優秀な中年男性のを沢山貰い続けるのが最も良いのだが、中年男性は回数をこなせないのが弱点だが。

 強くて絶倫な中年男性が居れば理想なのだが、そういう者は、大抵ハニートラップを避ける為に、色仕掛けが通じないのも困り事だけど。


「でも、そんな凄いスキル……当然、発動条件が厳しいんですよね?」

「いや、そうでもないわね。あの娘の容姿と年齢からすれば、条件を満たす事は容易……緊急事態だ! あのスキルを我らの為に使わせる為に生かしておいたけど、そうも言ってられない! 全軍で逃げた娘を捜索するぞっ!」


 やはり、こうなるか。

 さて、拙者はこの城に居る理由が無くなったので、さっさと抜け出し、メイリン様をお探ししよう。

 一先ず、メイリン様を助け出した者がすぐに兵士たちに捕まる無能ではない事を願いつつ、招集された兵たちの中に紛れ込む。

 暫し、先ほどの上役の説明を聞いている振りをし、


「何としてもあの娘を捕まえるのだ! ただし、くれぐれも男は使わない事! では、行きなさいっ!」


 周囲の兵たちと共に、堂々と城を出る。

 暫く適当に歩き、ある程度皆がバラけ始めた所で、城の北にある森の中へ。

 無駄に重い鎧を脱ぎ、樹の上に隠す。


「さて、身軽になった所で、先ずは……≪滅私奉公≫」


 拙者の――兵士などではなく、拙者のジョブ、シノビのスキルを使うと、身体が自然と東に向かって進みだした。


「東か……」


 メイリン様を救った者がどこの誰で、今どこに潜伏しているのかは分からないが、主と決めたメイリン様がどれだけ離れた場所にいようとも、拙者のスキルでいつか辿り着く事が出来る。

 メイリン様を連れている事もあり、そう遠くには言っていないはず。

 拙者の足であれば、すぐに追いつけるであろうと思いながら、全力で東に向かう事にした。

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