第71話 メイリンの人形たち
昨日と同じ様に、凄く満足そうなフィーネと共に起き、大きな寝室へ移動して皆を起こす。
その……何て言うか、それぞれ凄い夢を見ていて、夢だと落ち込むところまで一緒でなくても良いと思うのだが。
「ど、どうしてっ!? どうして妾が二十人も子供を産んで……はっ! ゆ、夢か。血族は増やさなければならないが、いくらなでも二十人は無理であろう」
その中で、初めてフィーネのスキルで夢を見たメイリンは、中々の夢を見ていたようだ。
その内容は、国を復興させるという目標に、かなり影響されているような気もするが。
「……しかし、何故夢の中で妾の二十人の子供の父親がアレック……げふんげふん。やはり、昨日あのような凄まじい光景を見てしまったからだろうか?」
メイリンが一人で何か言っているが、背負うものが大きいと大変なのかもしれないな。
一先ず朝食を済ませた所で、地下洞窟へ行くエリーとモニカに、メイリンの人形たちの朝食を持って行ってもらう事にした。
「そういえば、メイリン。人形たちは、毛皮で服もどきは出来たのか? 全裸でないのであれば、こっちの家で一緒に生活をしても良いと思うのだが」
「ふむ……聞いてみよう。……む? 何故だ? 返事がないぞ?」
「何かあったのか? とはいえ、壁で囲ってあるから、魔物などは現れないはずだが……ちょっと見てくるか」
「それなら妾も行こう」
ノーラが俺に抱きついたまま、一緒に行こうとしていたが、魔物と戦うかもしれないので、リディアたちと共に家で待機してもらう事にした。
だが、何故かリディアがついて来る。
「リディア?」
「大丈夫です。私の予想では、魔物でも緊急事態でもありませんから……いえ、ある意味では非常事態ですが」
「ん? リディアは、人形たちに何が起こっているか分かるのか」
「はい。昨日、向こうのお風呂へ水を入れに行った時、幼少期のアレックス様を見ようと思い……いろいろ見てしまいましたから」
リディアは一体何の話をしているのだろうか。
とりあえず、念の為にリディアとメイリンへパラディンの防御スキルを使用して小屋へ向かうと、
「エリー、モニカ? こんな所で何をしているんだ?」
人形たちに朝食を届けて、地下洞窟へ行くと言っていた二人が、小屋の入り口に立っていた。
何やら、扉を少しだけ開け、こっそり中の様子を伺っているのだが、俺の声に気付かない程、凝視している。
一体何を見ているのかと思いながら、扉を開けると、
「アレス……アレスーっ!」
「モニー……モニーっ!」
俺とモニカの幼少期の姿をした人形同士が、互いの名? を呼び合いながら、思いっきり抱き合っていた。
……ノーラが作って置いていったベッドの上で。
「アレス! モニー! 妾の呼び掛けにも答えず、何をしておるのだっ!」
メイリンが大きな声で叫んだ直後、驚いたのか俺の子供の姿をした人形――アレスがビクッと身体を震わせ……そのままモニカの子供の姿をした人形――モニーの上で、力尽きたように動かなくなってしまった。
ちなみに、名前が無いと呼び難いという事で、メイリンが名付けたらしいが……まぁ分かり易いから良しとするか。
「メイリン殿。流石に、これを止めるのは可哀想では?」
「可哀想も何も、ど、どうして妾の人形たちがこんな事を……母からは、こういった事はできないと聞いていたのに。……そ、そうか! このような生活をしているアレックス殿だ。この年齢からでも、このような事をしていたのか! くっ……この年齢なら大丈夫だろうと、何も行動に制約をしていなかったのが失敗だったか!」
「いや、九歳の俺のだろ? 流石にこんな事は知らないって。その証拠に、十三歳くらいまで、エリーと同じベッドで寝ていた訳だし」
当時の俺は、こんな行為を知る訳も無く……まぁでも、その後には色々と年相応に知るんだけどさ。
というのも、聞いても居ないのに、ローランドが教えてきたんだけどな。
「しかし……では、まさかモニカ殿が!? いや、だが女性からそのような事をするはずが無いし……」
「いや、正解だ。私は幼いころから、周囲のメイドたちがそういう色恋沙汰について話して居るのをこっそり聞き、日々妄想に耽っていたからな」
「な……な、何という事を……」
「はっはっは。昨日、針と糸を届けに来た時、真面目に作業をしているアレス君を、我が分身とも言えるモニー嬢がチラチラ見ていたのだ。これはもう、背中を押してやるしかないだろう。早いか遅いかだけの差だ」
「ちなみに、背中を押す……とは?」
「モニーの手を取り、アレス君のにご奉仕する方法を教え、くぱぁってさせて、その後どうするかを教えただけだ。いやー、こういう事は出来ないと聞いていたんだが、思いっきりヤッていたな」
「へ、変な事を学習させおって! くっ……こうなったら、≪人形生成≫」
突然メイリンが、懐から小さな容器を取り出し、スキルを使用する……って、何て物を持ち歩いているんだよっ!
「よし。お前たちは……アレクとモカだ。お主たちは、妾の命に従い、忠実に動く事! 分かったね?」
「わかったよ。お母さん」
「わかりました。母上」
メイリンが新たに生み出した人形に名前を付け、ウサギの皮で服を作るように指示し、
「アレックス殿。戻るのだ。時間の無駄であった。エリー殿やモニカ殿も、それぞれの仕事に戻られよ。時間は有限だ」
無理矢理俺たちと共に小屋から出る。
「……アレックスさん。ね、言った通り、魔物とかではなかったでしょ?」
小声でリディアが話し掛けてきたのだが、どうやら昨日の時点で、この様子を目撃していたらしい。
しかし、俺たちが小屋から出た直後、中から変な声が聞こえてきた気がするのだが……聞かなかった事にしておこう。
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