第303話 アクロバティックなカスミ
朝から三班で開拓を始め、夕方まで頑張って、一旦元兎耳族の村へ戻って来たのだが……初日からいきなり問題が発生した。
第一に、俺やサクラたちの探索班で南へ向かったが、何も見つからない。
途中、ユーリに空から見てもらったものの、木しか見えないそうだ。
ただ何も無いので、道が整備されてシーサーが来られるようになったら、魔導砲で一気に道が作れるようになるという事でもあるが。
第二に、熊耳族の少女たちが家を建てようとしてくれているのだが、この辺りの木は家造りに向いていないらしく、色々と厳しいそうだ。
そして第三に、
「パパー。メイリンママがさびしいから、かえってきてほしいってー」
今までも一日戻らない事はあったが、二日空けた事は無く……魔族領に居る女性陣から不満の声が上がっているのだとか。
幼いユーリにも、更に幼い子供が居る訳だし、いくらユーディットがみてくれているといっても、直接触れ合いたいだろうしな。
「分かった。一先ず、今日の所は一旦帰ろう。ユーリも一緒に戻ろうか」
「はーい!」
ユーリも子供に会いたかったのか、嬉しそうに抱きついて来た所で、
「では、私も戻ります! ご主人様のお傍に居たいですし」
「いや、モニカはここで待機しておいて欲しいんだ。流石にここを放置する訳にもいかないし」
「えぇっ!? そんなっ! 酷いですっ! ご主人様、私もお傍に置いてくださいっ!」
モニカが泣きそうな顔で抱きついて来た。
だが、ここまでの移動時間を考えると、唯一順調に作業が進んでいる第二班――リザードマンの村への道作りをしているモニカたちには残って、明日の朝から作業を再開してもらいたいんだよな。
「ちゃんと分身は置いていくぞ?」
「……あの、ブリジット殿や熊耳族の少女がしきりに言って居る、本気モードにしてくださいますか?」
「わかった。そうしよう」
「でしたら、私はここをしっかり守らせていただきますねっ!」
という訳で、第二班と第三班のメンバーを残し、俺とユーリ、サクラとヴァレーリエ、それからシーサーを連れ帰る為にソフィを加えて一旦家に帰る事にしたのだが、
「アレックスさん。私は激しいのは無理なので、一緒に連れて行って欲しいです」
普段から分身の所にはいかないリディアが、連れ帰って欲しいと言ってきた。
それは構わないのだが、第一般は機動力があるから、今からでも家に帰れると思うんだが、リディアは早く移動出来ないんだよな。
「リディアの言い分は分かった。だが、もう時間が時間だし、早く移動する必要があるから、リディアは俺が運ぶけど、構わないか?」
「もちろんです。というか、むしろそっちの方が嬉しいです」
「そ、そうか。じゃあ、早速移動しようか。……≪分身≫」
三体の分身を残し、リディアをおんぶした俺と二体の分身、それから第一班のメンバーは家に向かって出発したのだが、
「……っ! これはミオ……に、ブリジットとモニカか。夜まで待てって言ったのに!」
「アレックスさん? どうかされたのですか? ……あ! そ、そういう事ですか」
置いて来た分身たちに、三人が手を出し始めた。
分身と感覚を共有している俺のも大きくなってしまい……走りづらいし、何よりズボンの中で暴発は勘弁して欲しい。
とはいえ、早く戻らないと夜になってしまい、メイリンたちに怒られそうなんだよな。
どうしたものかと思っていると、
「ふふっ、お兄さん。お困りみたいねー」
音も無くカスミが並走し始め、話し掛けて来た。
「カスミ!? あ、すまない。カスミは全体を任せていて、今晩どうするかは何も指示をしていなかったな」
「カスミちゃんは分身を兎耳族の村に残してきているから、両方で楽しませてもらうんだけど……それはさておき、私ならお兄さんが困っている状況を解決出来るわよー」
「カスミが分身でミオたちを止めてくれるのか?」
「ううん。むしろ、私も分身で混ざろうと思うけど……そうじゃなくて、このまま走る速度を落とさずに、お兄さんも気持ち良くなれて、かつ服が汚れない方法があるのー」
ん? ミオたちを止めずに、走り続けられて、ズボンが汚れない? そんな方法があるのか?
「あ! まさか俺にズボンを脱いで走れというのか?」
「まさか。まぁ任せてよ。こうするのよ」
そう言うと、正面からカスミが俺に抱きついて来た。……上下逆さまの状態で。
「お兄さんなら、私とリディアちゃんに抱きつかれながらでも走る速度は落ちないでしょ? で、お兄さんのアレは私が全部飲んであげるから、そのまま走ってね」
「って、おい! ズボンから俺のアレだけ出すのかよっ! ……咥えるなっ! 頭を前後に振るなぁぁぁっ!」
「……んっ。やっぱりお兄さんのは飲み甲斐があるわねー」
まんま変態な格好をリザードマンたちに見られる訳にもいかず、全力で走り抜け……思っていたよりも早く東の休憩所へ戻って来る事が出来てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます