第304話 興味津々なティナと無邪気なノーラ

「うぅ、お兄ちゃーん! ボク、寂しかったよー!」

「あぁ、ごめんな。ノーラ」

「アレックス。私も寂しかったのだからな」


 東の休憩所へ戻ると、ノーラに抱きつかれ、ネーヴが何かを期待するかのように、チラチラと俺を見つめて来る。

 あー、昨日カスミに分身をここまで送ってもらったけど、分身は真っ先に風呂へ行く事になったんだろうな。

 ノーラには俺がそういう事をしないようにしているのを周囲も知っているからか、バレないようにしてくれたみたいで、一方のネーヴは風呂に入れないからな。

 その後、フィーネが皆を眠らせてしまうから、昨晩分身の俺とも触れなかった二人か。

 一先ず、ノーラと一緒に風呂へ入るという話をすると、ユーディットとエリーも一緒に入ると手を挙げた。

 ちなみに、東の休憩所のすぐ近くまで来た所で、流石にこのままでは無理だと分身を解除し、カスミとリディアにも自分で歩いてもらっている。


「あ、あの。せっかくなら、皆で一緒に入りたいので、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

「えっ!? ティナ!?」

「だ、ダメですか?」

「ダメな事は無いが……」


 いや、ダメなのか? ティナは確か十三歳だと言っていたよな?

 というか、そもそもどうして俺が居るのに、一緒に風呂へ入るだなんて言い出すんだ?

 どうしたものかと思い、エリーに視線を送ると、


「ま、待ってください! ティナさん……いえ。でしたら、私も一緒に入りましょう」

「ステラまで!?」


 今度はステラが名乗りを上げる。

 だが、すぐに近寄ってきて、


「アレックスさん。ティナさんは未成年です。フィーネさんみたいに、手を出しちゃダメですからね? 私も一緒に入りますけど、ティナさんを守る為ですからね?」


 耳元で囁いてきた。

 えーっと、エリー程ではないが、同じパーティでステラともそれなりの年月を過ごしていて、俺がそんな事をするような男では無いと分かってくれていると思っていたのに……いや、この状況で、そう思ってくれる訳がないか。

 一先ず、前半組の風呂へ入る事にしたのだが、


「てぃ、ティナさん! お、女の子なんですから、いろいろと隠しましょう!」

「え? でも、皆さん解放的ですし、私もそれに習おうかと思ったんですけど」

「だ、ダメですってば! あ、ティナさんっ! 走ると危ない……きゃぁっ!」


 ティナが無邪気にはしゃぐ一方で、留めようとしたステラが盛大に転んでいた。


「ステラ、大丈夫か?」

「はい。ありがとうござ……あ、アレックスさんも、隠してくださいっ!」

「ん? あ……すまない。そうだったな」

「そうだったな……じゃないですよ。……あと、サイズがおかしい……こほん。何でもありません」


 最近でこそ、リザードマンの村から布が手に入るが、魔族領へ来た頃はそういった類の物が一切なくて、風呂は常に全裸だったからな。

 うっかりしてしまった。

 それから、いつもの前半組と同じ様に、俺はノーラとニナにじゃれつかれ、エリーとユーディットはまったり喋っていて、そこへエリーの陰に隠れるようにしてステラが混ざっている。

 ついでに、ティナもエリーたちの傍に居るのだが……やたらと、こちらをチラチラ見て来るんだよな。

 あれか。ノーラとニナが楽しそうにしているから、この二人と遊びたいのかな?

 ギルド職員とはいっても、まだ幼さが残り、この二人とは歳も近いから、仕事が終わった後くらいは羽を伸ばしたいのかもしれない。


「ノーラ。ティナが一緒に遊びたがっていそうなんだが」

「わかったー! じゃあ、呼んでくるねー!」

「いや、そうじゃなくて、ノーラがティナの所へ……いや、違うんだっ! そういうつもりではなくて……」


 ノーラがティナを呼びに行き、嬉しそうにティナがやって来たのだが、その後ろにはジト目のステラもついて来ていた。


「アレックスさん……」

「待った。違うんだ! 俺が言葉足らずだったというか、ノーラに勘違いさせてしまったというか……とりあえず落ち着こう」


 思わず、後ずさりする為に立ち上がってしまい、


「わぁ! これが男の人の……へぇー」

「ティナさん。今見た物は忘れましょうね」

「ん? 二人が見ているのは……お兄さんのこれ? そういえば、お兄さん。これって、なんだっけ?」


 アレをティナに見られた上に、ノーラが無邪気に触りだして……急遽、前半組のお風呂時間を終了する事にした。

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