第206話 うさみみの家族たち

「ちょっと待ってくれ。皆で俺たちの住む場所へ移住すると言う話は聞いた。幸い土地はあるから、それは問題ないだろう。だが、こんなに幼い子供たちが居るなんて聞いていないぞ!?」

「いやー、そう言われても子供たちを置いて行くわけにもいかないだろ?」

「それはそうだが……魔物が出る場所で、ここから西の壁まで子供を連れて行けるのか?」


 それぞれの家族が荷物を纏め、また兎耳族の集落としての共有資産も纏め終わり、いざ移動……となったところで、幼い兎耳族の子供たちが姿を見せた。

 ちなみに正確な人数を数えた所、先程俺たちと小屋に居た成人の兎耳族の女性が、パメラを含めて十八人。

 それに加えて、まだジョブを授かっていない子供が九人居るのだが、一番幼い子供は三歳の男の子だそうだ。

 尚、元々はこの集落にも夫以外の男性の家族が居たらしい。

 例えば、この集落で最年長だという二十一歳のピエラは、十七歳の弟が居たのだが、実の姉や妹を含めた集落の女性陣たちから毎晩求められ……ある日突然姿を消したのだとか。

 この男の子が、将来その弟のように消息不明とならなければ良いのだが。


「んー、大丈夫だと思うけど。この辺りは動物系の魔物ばっかりで、ウチは動物系に強い狩人っていうジョブだし、さっき話したピエラは守りが得意なジョブだしさ」

「守りが得意なジョブ? それは是非とも話を聞いてみたいな」

「じゃあ、呼ぼうか? ピエラー!」


 パメラに呼ばれ、金髪で少し小柄な……でも胸は小柄じゃない女性がやって来た。


「呼ばれたっていう事は、今から二回目をするの? アレックス様のをまたいただけると思っただけで……んっ、身体がおかしくなっちゃいそう」


 ……正直、涎を垂らして恍惚の表情を浮かべながら、俺を見つめるのは止めて欲しいんだが。


「……パメラ。ピエラは大丈夫なのか?」

「あー、いつもの事だから気にしなくて良いよ。けど、アレックスが来てくれて、本当に良かった。男性が居ないままだと、いつかピエラが発狂するか、息子に手を出すかのどっちかだと思っていたから」

「パメラったら、酷ーい! 流石の私でも、三歳の息子に手は出さないよ。……弟には手を出したけど」


 いや、俺はそんな話を聞きたかった訳ではないのだが。


「ピエラは守りを得意とするジョブを授かっていると聞いたのだが」

「はい。ラビット・ナイトというジョブを授かっていて……あ、あの。少しだけ挿れちゃっても良いですか?」

「却下。それで、ラビット・ナイトというのは初めて聞くんだが、どういうジョブなんだ?」

「冷たくされるのも良いんですけど、出来ればお情けを……あ、はい。ラビット・ナイトは簡単に言うと、避ける盾ですね。攻撃力は皆無ですが、防御と回避が出来ます」


 何かを見たらしいピエラが突然怯えだしたので、どうしたのかと思って視線を追い、俺の後ろを見てみると、リディアが微笑んでいた。

 ……目は笑っていないが。

 あと、ユーディットまで怯えた様子で俺に抱きついてきたんだが、本当に何があったのだろうか。


 それから、ピエナの妹二人がビビアナと同じグラップラーで、接近戦が出来るという事と、パメラの妹二人もフェンサーという小剣を得意とする戦闘職だという話を聞く。

 流石に料理人や大工といったジョブを授かった者は戦えないかと思ったが、そもそも身体能力が高いので、大丈夫なのだとか。

 この人数にパラディンの防御スキルは掛けられないので、それは幼い子供たちに使って、後は自分たちで何とかしてもらうしかないか。

 兎耳族を何組かに分けて往復した方が確実なのだろうが、それはそれで問題があるしな。


「そうだ。あそこに銀髪の女の子が居るでしょ? プリシラって言うんだけど、あの子たちの家族はちょっと特殊で、あまり身体が強くないから気を付けてくれると助かるかな」

「……身体が強くないって言いながら、さっきは結構激しかったと思うんだが」

「うん。だから三回しかしてないって言っていたよ? ……って、そうじゃなくて、プリシラたちの家族は全員、兎耳族では珍しい月魔法士っていうジョブなんだ。要は接近戦とかが出来ないのよ」

「月魔法士? また聞いた事が無いジョブが出て来たな」

「兎耳族の一部にだけ伝わる、月魔法を使うんだよ。……ただ、今は使えないけど。夜、月が出ている時にしか使えない魔法だから」


 へぇ、夜にしか使えない魔法なんていうのがあるんだな。

 ……ん、夜の魔法? か、考え過ぎだよな?

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