第440話 謎の黒髪の幼女

「お、男って凄いんだな」

「あ、ヘレナさん。世の男性が凄いのではなくて、アレックス様が凄いだけらしいよ? 私も他の人は知らないけど、とりあえず普通の人は分身なんて出来ないからね?」

「確かに。それに、筋肉だらけで重い私の身体を、男性のアレだけで浮かせるなんて普通は出来ないよな」

「あの浮遊感は凄まじいわよねー」


 ヘレナとクララが互いに、うんうんと頷いているが……いや、もう触れないでおこう。


「ゴシュジンサマ……スゴカッタ」

「そうよねー。貴女もそう思うわよね」

「ゴシュジンサマノ、コドモ……タクサン、ウム」


 子供を沢山生むって、そう簡単な話ではないぞ……って、待った! とりあえず待ってくれ!


「その声……さっき、ヘレナの事を教えてくれたのは君なのかっ!?」

「……」


 見覚えのない女の子――いや、いつの間にか風呂に居たのは知っているが――に話しかけると、コクンと小さく頷く。


「ありがとう。君が教えてくれたから、ヘレナを助ける事が出来た。……が、それはそれとして、君はどうして俺に離れた場所から話し掛けられたんだ? しかも、俺にしか聞こえない声で」

「……チガウ。ゴシュジンサマノスキル」


 ご主人様のスキル……って、俺にそんなスキルは無いと思うのだが。

 それに、この女の子は色々と気になることがある。

 先ずは話し方が辿々しいという事。

 それから、容姿が幼過ぎる事。

 そして何より、髪が黒色だという事。

 黒髪なので、メイリンに会わせたら何か分かるのだろうか。


「とはいえ、ここにメイリンを連れてくる事は難しいし、俺とクララはともかく、この子を魔族領へ連れて行くにも時間がかかり過ぎるんだよな」

「……ダイジョーブ。イツモ、ゴシュジンサマノ、ソバニイル」


 大丈夫。いつも、ご主人様の傍に居る……というのがどういう意味かと思っていると、女の子が床の中へ入っていく。

 いや、これは違う!


「もしかして、俺の影の中に入っている!? ま、まさか……あのシャドウ・ウルフなのか!?」

「……ソウ。マゾク、タオシタ……コウナッタ」


 魔族を倒したらこうなった……って、この黒髪幼女が、あのシャドウ・ウルフだとっ!?


「あっ! エクストラスキルか! ……わかった。一旦、シェイリーの所へ行きたいのだが……俺の影に入ってくれるか?」


 黒髪幼女が無言で俺の影の中に入ると、


「アレックス様っ! 私はいつでもオッケーですっ!」

「悪いが、頼む」

「はい。先ずは大きく……あ! 違うの! 皆は待って! ズルいとかじゃなくて、これには訳が……」

「いや、さっき風呂であれだけ……いや、協力してくれるのはありがたいんだ。だが、やり過ぎると治まらなく……そ、そろそろ大丈夫だから! クララ!」

「どうぞっ! ……んはぁぁぁっ! 奥まで来るぅぅぅ……」

「って、早く頼む。ヘレナが今にも襲い掛かろうとしているんだが」


 クララが普通に楽しんでいるのだが……あ、景色が変わったな。

 ここは……六合教の宿舎か。


「アレックスーっ! 帰って来るのが遅いよー! レヴィアたん、寂しかったんだからー!」

「そうよー。お兄さんの事だから、敵にやられる事はないと思っていたけど、女の子に囲まれて抜け出せないって事は大いに有り得るから、今日帰って来なかったら、港町クワラドに向けて出発するとろこだったんだからー!」

「マスター。今日の魔力補給をお願い致します」


 クワラドで闇ギルドを潰すのはすぐだったのだが、領主に事情を説明したり、屋敷の授与とかで一日掛ったからか、レヴィアだけでなく、カスミやソフィに囲まれる。

 というか、リディアやヴァレーリエたちも来たけど、待ってくれ!

 先ずは、あのシャドウ・ウルフが転移スキルを使っても影から出て来られるのかを確認したいんだっ!


「アレックス。うちの聖女にだけというのはズルい。さぁ公平に全員とするのよっ!」

「六合。強制分身はやめ……んっ!? ちょっと待った! 分身が増えてないか!?」

「流石はアレックスなのじゃ。また進化したのじゃな? 帰って来なかった昨日の分を含め、沢山してもらうのじゃ」


 六合に分身を発動させられ、早速ミオが分身のところへ。

 これまでの十二人と同時にするのでも、感覚が凄すぎたのに……分身が俺を含めて十八体になっているんだが!

 皆、お手柔らかに頼む。

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