第221話 皆でお風呂

「アレックスー!」

「ヴァレーリエ。風呂に飛び込むのは危ないから止めるように」


 ヴァレーリエが勢いよく湯船にダイブしてきたので、注意すると、


「はーい。それより、アレックスは分身しないの?」

「……いや、風呂へ入るのに分身は必要ないだろ」


 軽く聞き流しながら、近寄ってきた。

 マズい。これが家の後半組のメンバーなら、何も問題は無いのだが、ここにはノーラとビビアナが居る。

 ヴァレーリエが熱っぽい瞳で、俺の一部分を凝視しているのを、何とかやめさせないと!

 ……そうだ!


「そろそろ、身体を洗おうか。ユーリ、おいで。身体を洗ってあげよう」

「わーい! パパにあらってもらえるなんて、はじめてー!」

「じゃあ、ウチがアレックスの身体を洗うんよ」


 何っ!?

 可愛い無垢なユーリの身体を洗うと宣言したのに、そのすぐ傍で俺の所へ来るなんて。

 リディアには有効だったユーリの無垢シールドが、ヴァレーリエには効かないのか!?

 しかし、ヴァレーリエに変な事をさせず、ノーラを守るには……仕方ない。


「ヴァレーリエ。悪いが俺は、ユーリの身体を洗う事に専念したいんだ」

「……ん? どういう事なんよ?」

「そのままの意味だ。見てくれ、このユーリの綺麗な、シルクみたいにスベスベな肌を。俺はユーリの柔らかい肌に傷一つ付ける事無く、丁寧に洗ってあげたいんだ」

「……じゃあ、その次にウチがアレックスを洗ってあげるんよ」

「いや、今日はユーリに洗ってもらう日なんだ。ヴァレーリエは、明日頼むよ」

「えぇー」


 ふぅ。我ながら意味不明だったけど、何とかヴァレーリエを遠ざける事に成功……してないっ!

 手は出してこないものの、至近距離でメチャクチャ見てくる!

 というか、何故かリディアも見てくるし、その上、


「パパー! あらって、あらってー!」


 ユーリが俺の前で嬉しそうに待っている。

 まぁユーリは洗うって言ったし、それ自体は構わないのだが、身長が俺の腰までくらいしかないユーリが床に立ち、真っすぐ俺の方を向いているのは問題だ。

 なんせ、こっちには石鹸やタオルといった類の物を持って来ておらず、全裸のままノーガードでユーリの前に立っているからな。


「ユーリ。身体を洗うから、俺に背中を向けてくれないか?」

「え? ツバサがあるから、せなかをむけたら、あらえないよー?」

「……そ、そうだな。じゃあ、洗おうか」


 何だろう。ユーリの頭を洗っていると、至近距離から、ジッとアレを見つめているように思える。

 だがユーリは六歳くらいに見えるし、そういう事に興味はないはず!

 そう思っていたら、小さな何かが俺のアレに触れた。

 ユーリがアレに興味を持ってしまったのか!? ……ど、どうしよう! 止めるにしても、何と言って止めれば良いのだろうか。

 説明を求められたらどうしようかとも思うのだが……って、触り方がおかしい!

 どうして、こう前後に……


「って、ヴァレーリエ。さっきダメだと言っただろ?」

「うぅ……その子ばっかりズルいんよ。ウチも、アレックスにお礼をしてあげたいんよ」

「どういう事だ?」

「今更だけど、アレックスはウチを奴隷から助けてくれたし。南へ行こうとしたけど、木材が重過ぎて、あんまり飛べなかったし」


 あー、なるほど。

 随分と早く降りたのは、重量オーバーだったのか。

 元々空を飛ぶのが得意とも言っていないしな。

 ただ、お礼と言いながらも、身体の洗い方がおかしいけどなっ!


「待って! そういう事なら、ボクもお兄ちゃんにお礼がしたいの! ボクも、お兄ちゃんの身体を洗ってあげるー!」

「それならニナもー! お兄さんには、本当に感謝しかないもん!」

「で、でしたら、私も! 私だって、アレックスさんのおかげで、こうして自由の身になれたので!」


 いや、ノーラ、ニナ、リディアと三人も近付いて来たけど……だ、誰かがアレを触った!

 せめて、ここではなく家でやってくれよ!

 向こうなら、タオルとかもあるし。

 今は、全員手で俺の身体を撫でているだけなんだが。


「じ、自分も混ざった方が良いッスよね? つ、ついに男性のを……緊張するッス」

「パパー! つぎは、ユーリがあらってあげるねー!」


 ビビアナは、奴隷解放スキルで来た訳じゃないだろ?

 あと、ユーリはヴァレーリエの真似をしないでっ!

 普通に背中とかを洗ってくれれば……そんな所は触っちゃダメだぁぁぁっ!


 ……なんて言うか、非常に疲れた風呂だった。

 五人から色んな所を触られ、時折抱きつかれ、どさくさに紛れて誰かにアレを少し舐められる。

 流石にあの状況では判断が難しいが、舐め方からして、リディアな気がするんだが……まぁノーラにバレなかったので不問としようか。

 一先ず、皆が着替えを済ませた所で、ヴァレーリエが近づいて来た。


「アレックス。出来ればもう一度、あの重い木材無しで飛ばせて欲しいんよ」

「ふむ。俺たちは乗って良いのか?」

「出来れば、二人くらいにして欲しいかな」


 木材無しとなると、飛んでも休憩所は建てられないが……しかし、ヴァレーリエがリベンジしたいという気持ちも分かるからな。


「じゃあ、石の壁を出す俺とリディアで、南側の様子だけ見に行こうか。すぐ戻ってくるから、ニナたちは少し待っていてくれ」


 休憩所から出ると、ヴァレーリエが竜になっても大丈夫なように石の壁を広げ、改めて南へ向かって飛び立った。

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