第603話 魚村の村長代理

 村の入り口で暫し待っていると、五人組の獣人族がやって来た。

 見た目では、全員女性に見えるのだが大丈夫だろうか。

 いや、ランランが魅了スキルを封印してくれたし、事実としてザシャには魅了効果がないから、大丈夫だと信じよう。

 内心ドキドキしながら待っていると、猫耳の女性が近付いて来て、口を開く。


「貴殿が、地上から来たと言う人間族か?」

「あぁ。貴女が、この魚村の村長だろうか」

「いや、私は村長の娘でベルティーナという。村長代理として来ている」

「そうか。俺は、アレックスという者だ。伝えたい事があってやって来た」


 おぉ、良かった!

 いきなり襲われたりせず、普通に会話が出来る! ありがとう、ランラン!

 ただ、これまでとは逆に、若干警戒されているようにも思える。

 いや、見ず知らずの者が突然村長に会わせろと言って来たんだ。

 これが普通の対応かもしれないな。


「それで、その伝えたい事とは?」

「ここで話して良いのだろうか。周囲に、何人か人が居るのが」

「構わない。人間族の村でどうしているかは知らないが、ここでは皆で情報を共有する」

「なるほど。そういう事なら……この第一魔族領に居た魔族、風の四天王ギルベルトを倒した。その為、希望するならば、この島から出る事もいずれ可能になるだろう。尚、同じ話を俺の仲間が野菜村にも伝えている」


 出来るだけ簡潔に纏めて話したつもりなのだが、ベルティーナだけでなく、その護衛らしき周囲の女性たちも反応が無い。

 簡潔にし過ぎたのだろうか。


「……言いたい事はそれだけか?」

「あぁ、その通りだ」

「わかった。悪いが、我々猫耳族は嘘を良しとしない。今回は見逃すが、次は許さぬぞ」

「いや、嘘を吐いている訳ではない。それに、俺は聖騎士のジョブを授かっている。嘘を吐いていない事を神に誓おう」

「ふぅ。お前の目的が何かわからぬが……お前は、ギルベルト様を倒したと言うのだな!?」


 あ……しまった! そう言えば、野菜村の村長が言っていたな。

 この第一魔族の村では、玄武が魔王に戦いを挑んだせいで、宙に浮いてしまったと考える者が多いと。

 それはつまり、魔族寄りの思考になってしまっているという事か!


「待ってくれ。ギルベルトを倒した後、いろいろあって第一魔族が降下したが、今は安定させているんだ! だから、そのうち準備が進めば、地上へ降りる事だって出来るようになるんだ!」

「何が第一魔族の降下だ! それは時々起こる、強風であろう! それに、地上へ降りられるという事は、地上から新たな外敵が現れるという事だ! お前のようにな!」


 マズい! 戦う気なんて全く無いのに、ベルティーナの護衛の四人が……来るっ!


「ナズナっ! コルネリアを頼むっ!」

「はいっ!」

「ユーリは上へ! ≪閉鎖≫」


 ベルティーナと護衛の二人は結界で封じる事が出来た。

 動ける二人の内、俺に向かって来た一人は、武器を叩き落として羽交い絞めにしたのだが、もう一人がザシャに向かっている!

 ザシャはジョブが封印されているから、今のままだと……どうなるんだ!?

 ひとまず、慌ててザシャの所へ向かおうとしたのだが、


「えいっ」

「えっ!? い、痛い痛い痛い!」


 ザシャが獣人族の武器を破壊し、関節を極める。

 そういえば一度も戦いを見ていなかったが、普通に戦えるようだ。


「ザシャ。それくらいにしておいてやってくれ」

「わかりました」


 ザシャが素直に獣人族を解放したのを見て、俺が張った結界を力づくで壊そうとしているベルティーナたちに目を向ける。


「ベルティーナ。少し話を聞いてくれないだろうか」

「くっ……私の部下は人質という事か」

「えっ!? すまない。解放するのを忘れていただけだ」


 ザシャに意識が向き過ぎて、女性を一人羽交い絞めにしていたのをすっかり忘れてしまっていた。

 武器も遠くへ飛ばしているし、俺が羽交い絞めしていた女性を解放したのだが……あれ? どういう訳か俺の傍から離れないのだが。


「えっと……解放したんだが?」

「お前! 一体、私の部下に何をしたっ! この変な壁といい、部下を洗脳した事といい……お前のどこが聖騎士なんだっ!」

「いや、本当に聖騎士だし、こっちの女性に変な事はしていないっ!」


 そう言ったものの、何故か先程の女性が、俺に向かって片膝をついて畏まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る