第604話 効果が高すぎるパッシブスキル

「あの……もう、向こうへ戻って構わないぞ」

「……」


 俺の傍で片膝を付く猫耳の女性に、ベルティーナの許へ戻る様に伝えたのだが、何故か首を振って俺から離れようとしない。

 その間、ベルティーナが突き刺すように冷たいジト目を向けてくる。


「君はベルティーナの護衛なんだよな?」

「今はご主人様のしもべです」

「ご主人様……って、俺の事なのか!?」

「はい、もちろんです」


 いやいやいや、魅了……ではないようだが、どうなっているんだ!?

 俺が知らない間に、服従させるようなスキルを得てしまっていたという事か?

 確かに、第一魔族領へ来てから幾つかスキルを得ている。

 シェイリーからは、ランランから得たスキルの事しか聞いていないし、可能性が無い訳ではないが……。

 そんな事を考えていると、


「姉様を解放しろっ!」


 ザシャに関節を極められていた、もう一人の猫耳の女性が俺に飛び掛かって来た。


「アレックス様!」

「いや、大丈夫だ。だが、俺はザシャのように関節を極めたり出来ないから、悪く思うなよ」


 ナズナが慌てて近寄って来ようとしていたが、それを制すると、飛び掛かって来た女性を先程同様に羽交い絞めにする。

 流石に女性を殴る訳にもいかず、どうしたものかと思っていると、跪いていた女性が立ち上がった。


「ご主人様に手を出す者は、例え妹であっても……」

「……って、おい! 待て待て待て! ストップだ! 妹なんだろ!? どうして殴ろうとしているんだよ!」


 思わず、羽交い絞めにしていた妹の手を放し、殴りかかろうとしていた姉を止める。


「で、ですが、ご主人様……」

「ご主人様ではないから。とりあえず、姉妹で殴り合いなんて止めるんだ。あと、ご主人様は俺ではなくてベルティーナだろ」


 どうしてこうなった……と思いつつ、更に冷たい目に変わったベルティーナを見ていると、


「姉様。私がどうかしておりました。ご主人様に手を上げようとするなど……止めようとしてくださり、ありがとうございます」


 今度は妹の方まで片膝を付き始めた。

 いや、マジで何がどうなっているんだ!?


「お前……やはり何か妖しいスキルを使っているな!? くっ! お前は、私が命に代えてもここで止めるっ!」

「違うと言っているだろ。……そうだ! ≪リフレッシュ≫」


 何かしらの状態異常に掛かっているのであれば……と、中位の状態回復魔法を使用してみたのだが、何も変化が無い。

 中位の魔法では治らない状態なのか、それとも全く違う何かが起こっているのか。


「そ、それなら、ユーリ! この二人がどういう状態かわからないだろうか」

「えっとねー、ふつーのじょうたいだと、おもうよー?」

「ふ、普通の状態なのか。これで」


 天使族のユーリが普通に見えるという事は、混乱や呪いの類では無い……って、俺はそんなスキルは持っていないハズなので、当然なのだが。


「あ! アレックス様! もしかして、テイムしちゃったんじゃないですか? 獣人族の人たちって、一応獣でもある訳ですし」

「いや、そんな事はないと思うのだが。獣人族なら、ノーラやミオにビビアナ、ブリジットにボルシチや、バルバラにパメラたち兎耳族……言い出したら切りがないぞ?」

「ですが、その方たちは全員アレックス様の奥様で、戦った事なんて無いですよね?」

「なくはないんだが……テイムスキルを得てから戦った事はないかな」


 コルネリアが閃いた! と、声を上げるが、ビビアナやブリジット、バルバラに至っては、戦闘っぽい状態になった事はあるんだよな。

 とはいえ、いずれもコルネリアが奴隷解放スキルで来る前の事だが。


「うーん。可能性はあるか。テイム状態って、どうやったら解除出来るんだろうな?」

「さぁ……流石に僕もわからないよ」

「魅了スキルから解放されたと思ったら、まさか争い事になったら、テイム状態にしてしまうなんて」


 まぁそれでも、獣人族ではない村や街には行けるし、そもそも戦いにならなければ問題無いので、問答無用に魅了状態としてしまうスキルよりかは良いか。


「ま、待て! 今の話からすると、お前と戦闘すると、強制的に服従させられてしまうのか!?」

「あー、そうみたいだな。ただ、獣人族限定のようだが」

「な……なんという事だ。この卑怯者ーっ!」


 えぇ……魅了状態に比べれば、遥かにマシだと思うのだが。

 残念ながら、ベルティーナから睨まれる事になってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る