第69話 周囲に何もない場所だと気付いたメイリン
「メイリンさん、すごーい! いいなー、凄いスキルで」
フィーネが羨ましそうにメイリンを見ていると、
「何を言っておる。我はお主が持つスキルの方が羨ましいがな」
シェイリーがフィーネのスキルの話をし始めた。
マズい。
フィーネがサキュバスである事が、皆にバレてしまう!
慌ててシェイリーを止めようとしたのだが、
「ドールマスターのスキルは、あくまで人形を作ったり、命令をするだけだ。一方で、お主のウィッチのスキルは、本人に効果を及ぼす事が出来るではないか」
出て来たのはウィッチのスキルの話だった。
「シェイリー。ウィッチの事を知っているのか?」
「もちろんだ。ウィッチ――すなわち魔女は、まじないを得意とするジョブだ。恋愛成就に、子宝祈願。それに安産祈願というまじないもあったはずだ」
「まじない……ウィッチは、魔法を使う戦闘系のジョブではないのか?」
「違うぞ。ウィッチは戦闘には向かないジョブだ」
そうだったのか。
ジョブ名から受ける印象で、魔法を使うジョブだと思っていたが、違ったんだな。
それなら、いくらギルドやエリーが魔法を教えても成果が上がらないはずだ。
「……フィーネちゃん。子宝祈願の効果があるの!? 是非、私に使ってくれないかしら」
「……エリー殿。抜け駆けはダメだ。私も……私にも頼む」
「えっとー、そう言われても、フィーネもどうすれば良いか分からないよー!」
エリーとモニカがフィーネに何か言っているが、何の話だろうか。
一先ず、フィーネが困っている事だけは分かるが。
「フィーネとやら。かなり昔の事だが、何かの書物で、まじないのやり方を読んだ事がある。後日それを伝授してやろう。あと、アレックスの子種を沢山飲んでいれば、いつか立派なウィッチになれるであろう」
「子種……って、アレックス様のここから出るのだよね。どうして、それを飲めば立派なウィッチになれるの?」
「先程まで、我よりも沢山飲んでおったが、気付いておらぬのか? アレックスが新たに得た、育成スキルのおかげで、子種を飲むだけで強くなれるのだ」
は……?
育成スキル?
アレを飲むだけで強くなれる?
「シェイリー、すまん。その、育成スキルとは何の話だ?」
「今、話した通りだ。事実として、この前飲んだ時よりも、我の力が多く回復しておるぞ」
「言われてみれば、確かにアレックスのを飲んだ後、力が湧いて来たような気がしなくもないわね」
シェイリーの言葉にエリーが同調し、モニカやフィーネも肯定する。
聞けば、昨日シェイリーが言っていた、面白いスキル……というのが、これの事らしい。
一先ず、メイリンをシェイリーに会わせる事が出来たので、一旦帰る事に。
龍の姿になったシェイリーが送ってくれたのだが、
「ま、待ってくれ。今、青龍様の背からチラッと見たのだが、家が二つあるだけで、他に何も無いのだが……ど、どうなっているのだ!?」
地上に着いた途端、何やらメイリンが騒ぎ出す。
「どうなって……って、ここは魔族領だからな。あの大きい家だって、ノーラを中心として、皆で建てたんだ」
「な……なんと。で、では、ここに国は無いと……」
「まぁそうなるな」
「ち、近くに街や村は?」
「南に行けば町がある……という情報を元に、南に向かって開拓して行っているが、遥か向こうだな」
「そ、そんな……わ、妾の――黒髪の一族の国を復興させる計画が」
国の復興か……話が大き過ぎて、俺には難しいが、一先ず出来る範囲では協力しよう。
とはいえ、現状では出来る事なんて、あまりなさそうだが。
「くっ……分かった。あの塔の中に比べれば、遥かに良いしな。では、街を目指して南に向かって進んで……って、そういえば、この石の壁は何なのだ?」
「あぁ、この壁の外には魔物が出るからな。リディアが精霊魔法で壁を作ってくれているんだ。この壁を南に広げつつ、畑を作っているという訳だ」
「そ、そうか。では、妾の人形が活躍出来そうなのは……かなり先か。一先ず、何か仕事をさせようと思うのだが、何が出来そうだ?」
子供の頃の俺とモニカか。
体力はともかく、腕力はそんなに無いだろうし、とりあえず作物の収穫だろうな。
「やってもらうとすれば、作物の収穫だろうが……とりあえず、メイリンの人形が裸なのを何とかしないとな」
「それなら服屋……が無いのだな」
「あぁ。そして、ここの生活で一番困っているのが、衣類なんだ。食料や木材、鉄あたりは、皆のおかげで手に入るのだが、服になりそうな物は……ウサギの毛皮くらいか?」
「とりあえず、それで良いのではないか? 全裸よりはマシであろう」
エリーとモニカの地下捜索組は、サソリは魔法で。ウサギは肉の為に、剣で倒して持ち帰ってくれているからな。
剥いだ皮が大量にあるはずなので、すまないが、一先ずはそれで頑張ってもらおう。
メイリンの指示で、二体の人形がウサギの毛皮を小屋に持ち帰り、自分たちの服作り? に励む事になった。
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