第225話 シェイリーの魔法陣

「さて……では、最後の仕上げだ」


 皆で昼食を済ませたあと、大量の聖水で描かれた魔法陣にシェイリーが魔力を注ぎ込むと……青白い光を放ち出す。


「凄ーい! ママの作った魔法陣を解析したんだー!」

「うむ。だが、あくまで天使族の魔法陣を借りただけだな。これをゼロから考えて作るのは……出来なくはないが、ちと骨が折れる」

「いや、それでも十分に凄いけどな。流石はシェイリーだな」


 そう言って褒めると、シェイリーは無い胸を逸らしながら、満更でもなさそうにしている。

 数日間、ずっと魔法陣の解析をしていたし、やはり大変だったんだろうな。


「しかし……疑う訳ではないのだが、大丈夫なのだろうか。やはり、アレックス様ではなく、先ずは私が……」

「いや、万が一があるからこそ、俺が行こう。その……付き合ってもらうユーリには悪いが」

「だいじょーぶ! パパはユーリがまもるもん!」


 いや、守るのは俺の役割なんだが……まぁユーリが嬉しそうだから良いか。

 だが、そんな可愛いユーリを見つめながら、


「……幼女。早く幼女にならなければ……」


 モニカが何かを呟いていた。

 とりあえず、スルーした方が良さそうな気がしたので、抱きついてきたユーリと一緒に魔法陣の前へ。


「ここの魔法陣の上に乗って、魔力を注ぐだけで良いんだよな?」

「その通りだ。我が魔力を注いでいる間だけ有効なので、夜は無効化したりも出来るぞ」

「なるほど。このテストで問題なければ、向こう側も、この社のように建物で魔法陣を覆いたいな。ノーラには申し訳ないが」


 昨日、ヴァレーリエが最初に着地した所にも小屋を作ってもらったのに、実質そこは殆ど使わなくなりそうだからな。

 一先ず、南の壁を拡張して昨日の休憩所まで道を繋げ、あの小屋を何かで活用するように考えなければ。


「では、行ってくる」

「いってきまーす!」

「万が一、想定していた場所からずれていた場合は、その天使族の子供を通じて連絡するのだ。我が何としてでも迎えに行こう」


 シェイリーの事は信頼出来るので、きっと大丈夫だろうとユーリを抱っこしたまま魔法陣の中へ足を踏み入れ……魔力を注ぐ。

 すると、一瞬で視界に映る景色が変わり……昨日俺とリディアとで作った石の壁に囲まれた芝生の上に居た。

 成功だ!

 足元の芝生には、先程足を踏み入れたのと同じような魔法陣が浮かび上がっており、同じ様にここから帰れるのだろう。


「ユーリ。何か体調が悪かったりはしないか?」

「ううん。ぜーんぜん、だいじょうぶだよー!」

「そうか。なら問題なさそうだな。よし、戻るか」


 来た時と同じ様に魔力を注ぐと、再び視界が変わり、皆の所へ戻って来た。


「たっだいまー! 何にも問題なかったよー!」

「そうだな。シェイリーに伝えた場所へ、きちんと行けたぞ」

「そうか。戻って来るのも問題無さそうだし、次は他の神獣たちの所へ行けるようにしたいものだな」


 シェイリーがサラッと凄い事を言う。

 他の神獣……そう言えば、シェイリーとミオが他にも居ると言っていたな。確か、白虎とか玄武とかって呼んでいた気がする。

 かなり遠い場所に居ると言っていたし、この魔法陣でそこへ一瞬で行けるようになれば、シェイリーも仲間に会えて嬉しいだろう。


「という訳で、アレックスよ。すまぬが、先程もらったのと同じくらいの聖水がまた欲しいのだが」

「いや、家にあった聖水のほぼ全てを使ったから、暫く貯まるのを待たないといけないな」

「ほう。貯まるという事は、定期的に聖水が手に入るが、一度に得られる量が限られている……といったところか?」

「そ、そんな感じだ。だから、今回くらいの量が貯まったら、声をかけさせてもらおう」

「わかった。我も、今回の魔法陣のように、白虎たちの位置を特定しなければならないし、今すぐ必要ではないからな」

「あ! もしかして、フレイの街――俺たちの故郷にも、位置が分かれば移動出来るのか?」

「正確な位置が分かれば可能だが、先程言った通り、我が魔力的に位置を把握する必要がある。他の神獣は我が魔力を知っておるが、魔力的に関与の無い地には難しいかもしれぬ」


 そうか。南の街を目指さなくとも、フレイの街へ戻れるかもしれないと思ったが、いろいろ難しいようだ。

 とはいえ、シェイリーの魔法陣は利用に問題が無い事が分かったので、昨日の小屋作りと同様に木材を準備し、ノーラにお願いして転移先の魔法陣を覆うようにして家を建ててもらう。

 それから、リディアや人形たちと協力し、魔法陣から南へ……シーナ国を目指して進んで行く。

 ちなみに、モニカやビビアナが魔法陣を使ってみたいという理由だけで、こっちへ来ているが……まぁノーラの手伝いをしてくれているから良しとしようか。

 ただ、サクラやミオにヴァレーリエは、何かあるといけないからと、護衛という名目で俺とリディアや人形たちの通路作りチームに居るが……とりあえず、隙あらば触ろうとしてくるのは止めてくれないだろうか。

 そんな事を思いつつ、南へ壁を広げていると、


「……アレックス様! 空から何かがやって参ります!」


 サクラが南から向かって来た何かを発見した。

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