第46話 フサフサ尻尾のノーラと、新たな家作り

 フサフサした何かが俺の手を包み込む。

 いつまでも触れていたくなる、不思議な心地良さがあり、そのフサフサを堪能していると、


「んぅっ……お、お兄ちゃん。あっ、あの……そこは……」

「アレックス。ノーラちゃんに何をしているのよっ!」


 エリーの大きな声で目が覚めた。

 視界には俺の顔を覗き込んでいるエリーの顔が映り、左腕にはニナが抱きつく感触があって、右手には夢の中と同じフサフサした感触がある。

 その触り心地が良いからか、無意識に右手を動かしてしまい、


「あぅぅ……お、お兄ちゃ……ボク、ボク……」

「ほら、またっ! そんなに触りたければ、私を触りなさいよっ!」

「……何の話だ?」


 怒るエリーの視線につられて右を見ると、顔を真っ赤に染めたノーラが、期待と不安が入り混じったような瞳で、ジッと俺を見つめていた。


「ノーラ? あっ! ……すまん。無意識に尻尾を撫でていたのか」

「だ、大丈夫。お兄ちゃんがしたいのなら、ボク……いいよ」

「何がいいのよっ! アレックスはノーラから手を離して、ノーラちゃんも起きて。ニナちゃんは……め、めちゃくちゃ幸せそうに寝てるから起こせないっ!」


 気付けば、既にリディアが朝食を作ってくれていて、テーブルからジト目を向けていた。

 おそらく、リディアが先に起きて食事を作り始めた所で、ノーラが俺の上から右側に落ちて、その時に尻尾が手に触れたのだろう。

 というか俺は、ずっとノーラを触り続けていたのか!?

 一先ずノーラに謝り、ニナを起こして食事にする。

 そこで、今日の活動方針の話をしていると、


「アレックスさん。南へ開拓を続けて居ますが、距離が離れ過ぎて居ますので、そろそろ休憩地点のような物があると嬉しいです」


 リディアから要望が出て来た。


「確かに、一番南まで行って、また帰って来て……を繰り返すのは大変だよな。しかも、これから更に南へ進んでいく訳だし」

「休憩地点……この小屋みたいな物があれば良いの? 手伝ってくれれば、ボク作れるよ?」

「ノーラは凄いな。しかし、ありがたいんだが……一つ問題があるんだよな」

「お兄ちゃん。問題って?」

「木材の運搬をどうしようかと思ってさ。ただでさえ遠いから大変だって話をしているのに、森は反対方向だからさ」

「そっかぁ」


 シェイリーが作ってくれた森へ行き、斧で木を切り倒して、ノコギリで必要な形に切る。

 ここまでの作業は、この小屋にあった道具類を、ニナが鍛治魔法を使って非常に良く切れる様にしてくれているから、実はそこまで苦ではない。

 ただ、今のところ、その木材は俺が手で運ぶしかなく、一度に運べる量に限界があるんだよな。

 まぁ俺が頑張れば良いのだが、それはそれでリディアの作業が止まってしまうのが困った所だ。


「お兄さん。じゃあ、木材を運び易くする為に、トロッコでも作る? 鉄でレールを作って、森から南に敷いてあげれば、かなり運び易くなると思うけど」

「トロッコにレール!? なるほど! それなら格段に運搬効率が上がるな! 森が北西にあるから、そこから真っ直ぐ南にレールを敷けば、今ある畑を壊す事もないしな」

「じゃあ、既に幾つか鉄があるけど、もっと沢山手に入れる必要があるかな」


 この話で、地下洞窟組の目的が探索から鉄の採掘に代わり、ニナがエリーとモニカへ合流する事になり、地上組は俺とノーラとリディアに。


「……って、あれ? そういえば、モニカは?」

「あっ! 二段ベッドの上だから、起こすの忘れてた!」

「じゃあ、俺が起こしてくるよ」


 エリーは、ノーラの変な? 声を聞いて慌てて降りて来たらしく、モニカの事をすっかり忘れていたと。

 梯子を数段登って、上のベッドに顔を出し、


「おーい、モニカ。朝だ……って、すまないっ! ……だが、何故毛布も被らずに全裸なんだよっ!」


 何故か下着すら着けていないモニカの身体を、至近距離で見てしまった。

 一先ず梯子を降りて話を聞いてみると、


「すみません、ご主人様。私は寝る時は全裸派なので」


 とんでもない事実が判明してしまった。


「えっ!? つまり昨夜、乳女さんとエリーさんは互いに全裸で……」

「どうして私まで全裸なのよっ! というかモニカさんは、昨日寝る前も、今朝もちゃんと服を着て寝ていたじゃないっ! 何をしているのよっ!」


 あー、確かに。

 前に俺の隣で寝ていた時も、ちゃんと服は着ていたな。

 という事は、モニカは今朝起きてから服を脱いで、ずっとベッドで寝たフリを……何をしているんだ?


「そんな細かい事は、どうでも良いのです! さぁご主人様っ! こちらへ上がってきていただければ、このモニカが全力でご奉仕させていただきますっ!」

「アレックスさん。新しい家が完成したら、乳女さんはここに残して、皆で移動しましょう。ノーラさんに悪影響です」

「ボク? よく分かんないけど、ボクはお兄ちゃんと一緒に居られれば良いよ?」


 そう言って、ノーラが駆けて来たかと思うと、いつもの様にしがみ付いて来たので、


「じゃあ、食事の後片付けをしたら、それぞれ活動しようか。ニナは悪いが鉄の採掘を頼む」

「うんっ! エリー、行こーっ!」

「そうね。新手が出なければ、私一人で十分だしね」


 俺もリディアを連れ、ノーラ共々開拓作業をする為に、小屋を出る。


「待って! 今すぐ着替えるっ! というか、ちょっと酷くないかっ!? エリー殿っ! ニナ殿ーっ!」


 モニカの叫び声を背中で聞きつつ、俺たちは南へ移動した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る