挿話108 六合教の教会へ辿り着いたローグのグレイス

 野党たちに馬車へ乗せられ、数日が経った。

 見た目はゴロツキというか悪い人に見えるんだけど、食事もくれるし、実は良い人なのかも。

 しかも、このご飯が結構美味しい。

 間違いなく私とイライザの二人旅よりも、格段に良い移動だ。

 だけど、そんな旅も終わりを告げる。


「おい、着いたぜ。六合教の本部だ」

「ありがとうございました」

「いいって事よ。それより、司教様に宜しく言っておいてくれよな」


 司教様? 

 よく分からないけど、連れて来てくれた事に感謝して、目の前にある教会の中へ。


「グレイス、私たちツイているわね! 何もしなくても、六合教の教会へ来られたわよ」

「……うん。けど、油断は禁物」

「あ、そうね。ここが本当にジョブチェンジさせてくれる場所なのか確認しなきゃね」


 そう。馬車に乗っている間は、拘束もされないし、歩くより速いし、疲れないし……で、ついつい乗り続けてしまったけど、ここが本当に六合教の教会だという保証はない。

 もしかしたら、騙されている可能性だってある。

 ただ、これまでに襲われてもおかしくない機会は何度もあった。

 でも何もされていないし、信用しても良い気はする。

 そんな事を考えてると、いつの間にかイライザが居ない。

 一体、どうしたんだろうかと周囲を見渡していると、


「グレイスー! 聞いて来たけど、ジョブチェンジはここで合ってるってー!」


 イライザが走って来た。

 これ、今回は大丈夫そうだけど、罠だったらアウトだからね?


「……イライザ。誰に聞いたの?」

「奥に居る、あの如何にも職員ですって感じの人よ」


 教会だから、プリーストとかアコライトって感じの人が居そうなものなんだけど、服装や雰囲気が全然違う。

 でも国が違って文化も違うから、そういうものなのかも。


「でね、ジョブチェンジの受付は向こうだって。ここまでの旅費や食費が浮いたから、費用が足りる……よね?」


 ひとまず金額が分からない事には何とも言えないので、イライザが話を聞いたという職員さんの所へ再び聞きに行こうとした所で、横手から女性に声を掛けられた。


「貴女たち……見ない顔ですけど、まさかジョブチェンジをする為に来られたのですか?」

「はい。そうなんです。ところで費用は……」

「ちょっと……こっちへ来てください」


 女性に呼ばれ、薄暗い通路へ。

 言われた通りについて行くと、小さな部屋に通され、扉に鍵を掛けられてしまった。


「あ、あの……この部屋は?」

「小声でお願いします……貴女たちは、おそらく六合教の布教活動でジョブチェンジの話を聞いてきたのでしょうが、悪い事は言いません。やめておきなさい」

「ど、どういう事ですかっ!?」

「お願いですから、小声でお願いします。私もかつて、ここでジョブチェンジをしたのです。元々、武闘家という素手で戦うジョブを授かっていたのですが、全く違う魔法系のジョブに変わってしまい、本当に苦労しているのです」


 あー、そういえば聖女のジョブを授かったっていう人も、魔力が無くて大変だって話を聞いたわね。

 イライザは、アコライトの今でもメイスで魔物を殴ったりしているから、ジョブチェンジしてからも大丈夫な気がするけど、もしも私がお姫様というジョブになったら……って、お姫様ってどういうスキルなんだろう。

 そもそもジョブなのかな?

 いや、お姫様じゃなくてもいいの。とりあえず、後方で男性から守ってもらえるジョブが良い。

 アコライトでもウィザードでも。いっそ、非戦闘系の商人だとか、料理人とかでも良いわ。

 商人だと、商売が上手く出来る気はしないけど、料理人なら丁度良いかも。料理は今でもしているし。


「……という訳で、私はマジック・ポーションを大量に飲み、能力向上ポーションというのを常に飲んで、魔力を無理矢理上げたりと、凄く大変なんです」


 あ、お姫様になりたいっていう妄想に耽って、女性の話を聞き逃してしまった。

 とりあえず、ジョブチェンジは止めておきなさいって話よね?

 一先ず、私たちの事を思って忠告してくれたと思うので、礼を言って元の場所――礼拝堂みたいな所へ戻ると、何やら教会の外が騒がしい。

 一体何があったのだろうかと思ったら、入り口の扉が開かれ、男性が教会へ入って来た。


「すまない! プリーストを呼んでもらえないだろうか!」

「お兄さーん! 教会へ着いたわよ! 何処でするぅ? そっちの暗がりなんて良さそうよねー」

「えぇいっ! アレックス様に気安く抱きつくなっ! 先に拙者が愛していただくのだっ!」


 えーっと、痴情のもつれかな?

 一人の男を大勢の女性が取り囲んで……うわぁ。公衆の面前で、そんな所を触るの!?

 アレックスって人、随分と大胆な事をさせて……って、待って。何処かで聞いた事のある名前ね。

 沢山の女性を引き連れて……あっ! もしかして、エリーさんとフィーネさんの二人を妊娠させ、更に別の女性とも関係を持っているという、鬼畜王アレックス!?

 ……私も混ぜてくれないかな?

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