第413話 マジック・ポーションパニック
「お兄さん。先ずは向こうへ」
「わかった……人が多いな」
「まぁ街の中心へ向かっていますからね。あと、自警団の詰所は少し外れた所にありますし」
キャサリンの案内で歩いていると、路上で談笑している男女四人組のうち、魔道士風の女性がジッと俺を見つめてくる。
何となく嫌な予感がして、早足で通り過ぎようとすると、その女性が突然ビクンと身体を震わせた。
「ん? ダーシー? どうかしたのか? おい……って、どこへ行くんだよっ!」
「私……わからないけど、あの人の所へ行かなきゃ! 私の旦那様なの!」
「はぁっ!? いや、そんな……ちょ、待てって! これからダンジョンに……ダーシーっ!」
って、見ず知らずの女性が走って来たっ!
しかも、ローブに杖……って、どう考えても肉体派ではないのに、やたらと足が速いっ!
「皆、少し急ぐぞ!」
「お兄さん。急ぐって言っても、この人だかりだと無理だよー!」
「ろ、路地へ! 多少遠回りになっても構わないから、人の少ない道へ行ってくれ!」
「えー……じゃあ、こっちかなー」
いかにも魔法を使いそうな女性だったので、おそらくレイが作ったマジック・ポーションを飲んだ事があるのだろう。
だが、そのポーションの副作用である魅了効果は、俺が近くに居る時だけしか発動しない。
という訳で、あの女性から逃げれば、魅了効果が解除されるのだが、
「あ、あのっ! わ、私のお兄ちゃんになってくださいっ!」
小柄な少女が意味不明な事を言いながら抱きついて来た。
しかも、その隣に本物の兄が居たらしく、怒りの形相で向かって来る。
「おい、てめぇ……俺の妹に何をしたんだっ!」
「いや、何もしていないし、むしろされている側なんだが」
「ふ、ふざけるなっ! お、俺の可愛い妹が、俺以外の事をお兄ちゃんだなんて呼ぶ訳ないだろっ! というか、離れろっ!」
「それは、自分の妹に言ってくれ」
よく見たら、この少女も杖を持っているな。
兄妹でパーティを組んでいるのか……って、何だかこの辺りは、冒険者風の人間が多く無いか?
「あ、アレックス様。よく見たら、その先に冒険者ギルドが……この通りはマズいのでは!?」
「シーナ国には冒険者ギルドが少ないと聞いていたが、流石に王都にはあるのか……って、ここは本格的にマズいな」
レイのマジック・ポーションは小さくてかさばらないから、女性冒険者に大人気だという話を、商人ギルドで聞いた気がする。
そして、すぐ近くに冒険者ギルドがあって、通りには食料や武器や防具に、消耗品なんかを扱っている店があるから、必然的にあのポーションを飲んだ事のある者も多い訳で。
「お兄ちゃん。私、お願いがあるんだけど……聞いてくれる?」
「それは、あっちの本物のお兄さんにお願いしてくれ」
「ダメダメ。だって、あっちのお兄ちゃんは格好良く無いもん。私の本当のお兄ちゃんはアナタなの! という訳で、エッチな事を教えて欲しいの!」
どうしてそうなるんだよ。
いや、魅了状態だからなんだけどさ。
「うぐぉぉぉ……い、妹よ。そういう奴が好みなのか!? い、いつか妹が男を連れて来ると覚悟していたが、それが今なのかっ! しかも、俺の前でイチャイチャ……うわぁぁぁぁっ!」
「いや、違うから。とりあえず、妹を連れて俺から離れてくれ」
「お兄ちゃん。子供ってどうやって作るのー? 教えて欲しいなー」
妹は妹で、胸を押し付けながら何を言って居るんだ?
「お、追いついたっ! すー……はー……あのっ! 私と結婚してくださいっ!」
「ちょっと待ちなさいよっ! その男性は、私たちA級冒険者パーティがスカウトさせてもらうわっ! 女性だけの四人パーティなの。丁度、格好良くて強そうで、不思議な魅力のある男性を探して居たのっ!」
「……ねぇ、おにーさん。大きな胸は嫌いかしらぁ?」
しまった! さっきの兄妹に気を取られている内に、追いかけられていた女性に追いつかれ、別の女性たちから囲まれたっ!
「ねぇねぇ、お兄さん。楽しい事するならボクも混ぜてねー!」
「お兄さん。早く教会へ行こうよー! 教会の物陰でさっきの続きをするんでしょー? こう、神様の前でするなんて、背徳感がヤバいよねー! 想像しただけで……んっ! 早く早くー!」
「アレックス様。許可いただければ、拙者が道をお作り致します。……少々、手荒になりますが」
抱きついてくる女性たちに紛れてジャーダもくっついてきたかと思うと、キャサリンは俺の手を変な所へ押し付けて来るし、サクラは若干苛立っているのか口調が変わっているし……ど、どうすれば良いんだっ!?
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