挿話74 腕力はあるけど身長は無い、熊耳族のビビアナ

「ビビアナ。君を本日付で俺、スノーウィマウンテン直属の特別部隊に登用する」

「はい! 了解ッス!」

「いいかい。第一の任務は、この牛をアレクサンダー王国へ送り届け、暫く世話をする事だ。第二に、俺の妹スノーホワイトと、アレックス殿の仲を取り持つ事。後は、アレックス殿の為になると思う事を君の判断で行ってくれれば良い」

「わかったッス!」

「最後に一つだけ言っておくが、今から行く国では、少々常識が通じず、戸惑う事もあると思う。だが、郷に入っては郷に従え……あの国では、それが普通なんだ。頑張ってくれ!」


 そう言って、転送装置でこの国へやって来たのが三日前の事だ。

 たった三日ッス! その三日間で、連れて来た普通の牛が牛耳族の大きな胸の女に変身し、季節外れの作物が大量に作られていて、その作物を、大昔に最恐の軍団と呼ばれた大量の人形たちが収穫している所を目撃した。

 この時点でメチャクチャなのに、出会ったら若い男が誘拐されて骨と皮だけになる……と言われる兎耳族の集団が移住してくるなんて、この国は一体どうなっているの!?

 人間や獣人だけじゃなくて、エルフやドワーフも居るし、天使族まで居るしさ。


 そして、これらの多種多様な住人を、たった一人で纏め上げているのが、私の旦那様となったアレックス様だ。

 ただただ、凄いとしか言いようがないし、私は勝負を挑んで負け、熊耳族の掟に従って妻となった身なので、何も言える立場ではないんだけど、


「で、出会って僅か三日で一緒に風呂へ入るというのは、どうなんスか?」


 ここでは大きな風呂があるだけで、前半と後半に分かれて風呂へ入るのだけど、ニナさんとユーディットさんから絶対に前半へ入るように言われた。

 今、私の旦那様は、そのニナさんとノーラさんに挟まれ、湯船でくつろいでいるのだが……何故、この状況でくつろげるの?

 両隣に全裸の女の子が居るんだよ? いや、どちらも幼いから、子供として見ているのか。

 となれば、背は低くとも出る所は出ている……気がする、私の身体が狙われてしまうっ!


「うにゃー。熱いのはイヤなのニャー。身体が濡れるのも好きじゃないニャー」

「ムギー、ダメだよー。せめて身体は洗おうよー。というか、ムギが自分で洗わないなら、私が洗うからねー」

「ま、待って欲しいニャー。くすぐったい……くすぐったいのニャー! そ、そこは自分で……自分で洗うから許してニャー!」


 ユーディットさんがムギさんの身体を洗っているのだが、どちらも幼くて無邪気だからか、あんな所に手を……だ、だが、旦那様の夫となった今、いつかは私もあんな所を触られたりするのか。

 うむ。この中で身長は私が一番低いけど、胸は一番大きい……と思うので、セクシーな私の身体を見て、旦那様がいつケダモノになるか分からない。

 念の為、湯船の隅に逃げているけど、覚悟だけはしておこう。

 ……先に私が大人になったら、お姉ちゃんはビックリするだろうな。

 いやでも、むしろ私が先に進んで、召喚魔法で帰った時にアドバイスしてあげる方が良いのかも。

 お姉ちゃんは私と一緒で、男性に縁の無い暮らしだもんね。


「……って、違うッス! 任務ッス! 私の幸せも大事だけど、スノーホワイト――ネーヴ様とアレックス様の仲も何とかしないといけないッス!」


 せっかくアピール出来るお風呂タイムだと言うのに、ネーヴ様は熱いのがダメだから、外で行水……って、勿体ない!

 ニナさんとノーラさんくらいに、接近は無理だとしても、こうして全裸で居れば……ほ、ほらっ! アレックス様が近寄って来た!

 いよいよ……お姉ちゃん、ごめん! 私は、先に進むからっ!

 旦那様がざぶざぶと湯船の中を進み……あ、アレが男性のっ! あわわわわ……ち、近いっ! すぐ目の前にっ!

 思わず、鼻くらいまでお湯の中に沈んでしまった私の胸に、旦那様が手を伸ばし、


「ビビアナ。そろそろ後半組と交代しようか」


 胸ではなく私の頭を撫でて湯船から出ると、そのまま脱衣所へ向かって行ってしまった。

 ニナさんとノーラさんは言わずもがなで、ユーディットさんも無邪気に旦那様へ抱きついている。

 私も抱きつくべき? ……いやいや、彼女たちと違って私は大人な女。はしたない事は出来ない。

 だけど、行水を終えたネーヴ様を含め、前半組がいつもの家に向かっている中で、旦那様がエリーさんやリディアさんたちとお風呂へ。

 ニナさんたちとは違い、私と同じ大人な女性たちと一緒にお風呂へ入って、変な事にならないのかな?

 そんな事を考えて居ると、


「ビビアナは、もっとご飯を食べた方が良いと思うニャー。小さすぎるのニャー」


 一番幼いムギさんに子ども扱いされたっ!

 私は成人だし、お子様じゃないのにーっ!

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