第493話 倒した魔物の肉をおすそわけ

「師匠……凄い。あんなに巨大な魔物を……」

「それより、貴方! ご主人様の邪魔ばかりして、何のつもりなのっ!? そもそも……」


 えーっと、メルヴィンに言おうと思っていた事を怒った結衣がどんどんぶつけていく。

 その間、魔物が怖かったのか、それとも怒った結衣が怖いのかは分からないが、ミリアがプルプル震えながら抱きついてきていて……いや、ユーリとニースは抱きつく必要がないよな?

 少しも怖がっていないし。


「メルヴィン。言いたい事は結衣が言ってくれたが、まずは大切な人を守れるようになろう」

「そうですね。結衣ちゃんみたいに可愛い女の子と出会えても守れずに傷つけるような事になってしまってはダメですよね」

「そもそも結衣はご主人様のものだから、エッチな目で見ないで!」


 あ、メルヴィンは結衣をそういう目で見ていたのか。

 それで、結衣が尚更怒っているのか?

 一先ず、メルヴィンには剣や盾の使い方を教える事になったのだが、その前にラヴィニアが氷魔法で魔物の肉を凍らせる。


「ラヴィニアは氷魔法も使えるんだな」

「水魔法と相性が良いですからね。ただ、水魔法ほど得意ではありませんが」


 その次は、俺が精霊魔法で石の壁を生み出し、村の周りを囲っていく。


「えぇっ!? 師匠、そんな魔法まで使えるんですかっ!?」

「先生、すごーい!」

「この石の壁の塀があれば、余程強力な魔物が来なけれでば、大丈夫だろう」


 ある程度、俺が出来そうな事を終えたので、ニースに頼んで刃の無い練習用の剣を作ってもらった。

 これを使ってメルヴィンに剣と盾の使い方を教える事になったのだが、


「アレックスさーん! あぁっ! 滴る汗が素敵っ!」

「もぉっ! どうして、これ以上近寄っちゃダメなのよっ! 村長のバカっ!」

「くっ! ミリアは抱きついているのにっ! 確か、私と二、三歳しか離れてないはずなのにっ!」


 村長が張ったロープの向こうから、見せ物のように大勢の女性が見てくる。

 あれだけ離れていれば、魅了スキルの影響は受けないはずなのだが、どうして女性が集まっているのだろうか。


「む……メルヴィン。剣の振りがズレてきているぞ。先ずは身体に正しい剣の使い方を叩き込むんだ」

「はい、師匠っ!」

「ふふっ。間近であなたの汗を見られるのは役得だわぁ。まぁ夜の汗の方が好きだけど」


 メルヴィンに剣を教えながら、俺も基本に立ち返ろうと、一緒に剣の素振りをしているのだが、ラヴィニアが桶の中から熱い視線を送ってくる。

 汗など見てどうするのやら。


「そろそろ、日が傾いてきたな。では、メルヴィンはこれからも鍛錬を続けるようにな」

「はいっ! わかりましたっ!」

「先ずは自身の大切な人……家族を守れるようになって欲しい」


 俺も……エリーたちを守るべきなんだが、少しばかり遠く離れてしまったな。

 最悪、応接スキルと分身スキルで何とかするつもりだが。


「先生ー! ミリアはー? ミリアにも、何か教えてー!」

「ミリアは……そうだな。ミリアには何かあった時の逃げ方を教えよう」

「にげかたー?」

「あぁ。ミリアはまだ幼いからな。剣や盾を扱うのは難しい。何かあったら、まずは迷わず逃げて、近くにいる大人に助けを求めるんだ」

「んー、お兄ちゃんだね! お兄ちゃん、もう大人だもん!」

「あぁ、そうだな。メルヴィンも、ミリアを守れるように頑張らないとな」


 抱きついてくるミリアの頭を撫で、凍らせておいた魔物の肉を持って村長の所へ行こうとすると、


「アレックスさぁんっ!」


 ロープの外に居た女性たちが雪崩れ込んで来る!

 村の皆で分けようと、巨大な魔物の肉を持っているから、手が塞がっていて……とはいえ、周囲を女性に囲まれた状態で、凍った巨大な肉を手放したら、女性たちが大怪我をしてしまう。

 ……って、こんな状況なのに、どうして俺を脱がしてくるんだっ!?

 しかも、触りまくって……ダメだって!

 とりあえず、この肉というか、氷の塊を何処に置かせてくれっ!


「わぁ……先生のって凄いねー! パパやお兄ちゃんのと、全然ちがーう!」

「ミリア。師匠は凄いお方だからな。俺なんかと比べちゃいけない存在なんだ」

「というか、ミリアは見ちゃダメだぁぁぁっ!」


 倒した魔物の肉をおすそ分けしようと思っただけなのに、どうしてこうなるんだーっ!

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